日本林学会大会発表データベース
第115回 日本林学会大会
セッションID: P1004
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生態
東京大学北海道演習林におけるウダイカンバ高齢木集団の遺伝構造
*内山 憲太郎津田 吉晃高橋 康夫後藤 晋井出 雄二
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抄録

東京大学北海道演習林では、持続的な森林経営を目指した天然林施業が50年以上にわたり行われている。   ウダイカンバ(Betula maximowicziana Regel.) はその重要な収穫対象樹種の一つである。陽性の先駆樹種であり、北海道演習林における森林再生機構に重要な役割を果たしている。本種はその更新能力の高さから、北海道各地の風害、山火事跡地にしばしば大規模な一斉林を形成しており、北海道演習林内でも、1911、14年の山火事跡地1500haにわたり二次林(以下山火再生林)を形成している。林業上もその材は高級家具の化粧材などとして高値で取引されている。 これまでウダイカンバはその更新の容易さから、遺伝的多様性について特段注意が払われてきたとはいいがたい。そこで北海道演習林内のウダイカンバ集団の遺伝構造について、現在の成木集団と、埋土種子集団について、マイクロサテライトマーカーを用いて明らかにした。2.材料および方法 東京大学北海道演習林内の天然林6集団、山火事跡に更新した90年生前後の山火再生林4集団を設定した。集団間の距離は2.2_から_20.4_km_である。各集団につき胸高直径30_cm_以上の成木約50本、計491個体から枝葉を採取し、マイクロサテライト多型解析実験に供試した。同時にGPS測量を行い、個体位置図を作成した。また、林床から採土円筒を用いて20ヶ所ランダムに土壌を採取し、蒔き出しにより埋土種子の芽生えを採取した。解析には、ウダイカンバ用(Ogyu et al.,2003)とシラカンバ用(Wu et al.,2002)の計11個のマイクロサテライトマーカーを用いた。3.結果および考察解析の結果、分集団の遺伝子多様度HSは0.367、全集団の遺伝子多様度HTは0.371であった。各集団における任意交配からのずれを示す近交係数FISは_-_0.072_から_0.047で、いずれの集団でもハーディー・ワインバーグ平衡が成り立っており、任意交配集団とみなされた。遺伝的多様性の指数であるヘテロ接合度の期待値Heは0.351_から_0.400、Allelic Richness(Petit et al. 1998)R35は、2.24_から_2.59であり、集団間に大きな差はなかった。集団間の遺伝的分化程度を示す統計量FSTは0.012、遺伝的な距離D (Nei,1972)は、0.001_から_0.032とともに非常に低かった。また集団間の地理的な距離と遺伝的な距離および分化度の間には有意な相関は認められなかった。これらのことから、北海道演習林内のウダイカンバ集団は、遺伝的に非常に似通った集団であることがわかった。これは、現在の成木集団が成立した時に、集団間で活発な遺伝子流動が起こっていたことを示している。そのような中、山火再生林集団間のFSTは0.016であり、天然林間0.008にくらべて有意に高かった。また、集団固有の対立遺伝子は、天然林集団では、6集団中5集団で計9個検出されたのに対し、4集団中1集団で計1個のみであった。また、集団内の連鎖不平衡な遺伝子座対の数は、山火再生林集団のほうが多い傾向が見られた。これらのことは、山火事後の一斉更新という更新パターンが生み出した遺伝的構造と考えられた。採取した土壌から得られた251個体の埋土種子集団の結果は、HS、HT はそれぞれ、0.338、0.342であり、成木集団より低い値であった。近交係数FISは_-_0.066_から_0.084で、いずれの集団でもハーディー・ワインバーグ平衡からの有意なずれはなかった。各集団のHe、Rsはそれぞれ0.278_から_0.378、2.17_から_2.45であり、わずかながら成木集団よりも低かった。FSTは0.009、D (Nei,1972)は、0.001_から_0.037とともに非常に低かった。各集団固有の対立遺伝子は10集団中1集団から2個検出された。埋土種子集団間の遺伝的分化の程度は低く、現在の成木集団間に活発な遺伝子流動が生じていることが示唆され、山火再生林集団に見られた遺伝的構造は、将来世代には解消されることが予想された。集団内の遺伝構造を、Moran’s IとNACを用いて検定したところ、10集団中4集団で80mまでの距離階級で遺伝子の集中分布が見られた。シードトラップを用いた種子散布の調査からは、散布種子のうち90%が母樹から100m以内に落下したという報告があり(大給,2001)、今回の集団内遺伝構造の結果は、種子の分散の制限が作り出した構造と考えられる。集団内に遺伝子の集中分布が生じている集団は、天然林内と山火再生林内に2集団ずつあり、更新パターンの違いでは、集団内遺伝構造の説明はできなかった。

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© 2004 日本林学会
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