日本林学会大会発表データベース
第115回 日本林学会大会
セッションID: G11
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樹病
マツノムツバキクイムシ孔道から分離されるAmbrosiella属菌
*升屋 勇人市原 優窪野 高徳
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抄録

キクイムシ類は菌類と何らかの相互関係を持っている。特に養菌性キクイムシはマイカンギアと呼ばれる胞子・菌糸の貯蔵・運搬器官で、アンブロシア菌と呼ばれる菌類を保持、運搬している。アンブロシア菌は幼虫の栄養源となっており、養菌性キクイムシとアンブロシア菌は高度に発達した相利共生の1例としてよく知られている。 一方、同じキクイムシの中でも樹皮下穿孔性キクイムシは、樹木の内樹皮を摂食するグループであり、特定の菌類との関係は養菌性キクイムシと比べて希薄と考えられている。しかし、樹皮下穿孔性キクイムシの1種、マツノムツバキクイムシは口腔内にマイカンギアがあり、アンブロシア菌の一種Ambrosiella属菌をそこに保持していることから樹皮下穿孔性キクイムシの中でも特異な種である。 マツノムツバキクイムシにおけるアンブロシア菌の意義は、内樹皮とともに虫の栄養源になっていると考えられているが、十分には解明されていない。本研究ではマツノムツバキクイムシにおけるAmbrosiella属菌の適応的意義を明らかにするための予備調査として、マツノムツバキクイムシ孔道から菌の分離を行い、初期孔道における菌類相を明らかにするとともに、Ambrosiella属菌の存在の有無、分離パターンを調査した。2.材料と方法
 2002年5月16 日、岩手県盛岡市のアカマツ林においてマツノムツバキクイムシが穿孔していたアカマツ落枝(直径約12cm)2本を、実験室に持ち帰り分離に供試した。樹皮表面を火炎滅菌したあと、火炎滅菌した鉈で樹皮を剥ぎ、マツノムツバキクイムシ孔道を部位ごとに卵室、長さ5mm以下の幼虫孔、長さ5-10mmの幼虫孔、長さ10-15mmの幼虫孔の4つにカテゴリ分けした。各カテゴリで最も母孔から遠い幼虫孔先端部の樹皮片(2x2x2mm)をそれぞれ1個ずつ切り取り、1%麦芽寒天培地上で2ヶ月間、18℃暗所で培養し、その間に樹皮片から出現した菌を分離した。分離した菌は2%麦芽寒天培地上で純粋培養した。こうして得られた菌株を形態観察により同定し、カテゴリごとに、分離に供試した全幼虫孔数における菌が出現した幼虫孔数の割合を出現頻度として算出した。
3.結果および考察
 マツノムツバキクイムシ孔道の卵室では明瞭な内樹皮の変色は認められなかったが、8種類の菌が分離され、4種類が同定された。 もっとも高頻度に出現したのは酵母で76%、次いでAmbrosiella macrosporaが38%であった。また20%の出現頻度で青変菌の1種、Ophiostoma ipsが分離された。母孔付近の内樹皮は褐変していたが、今回分離に供試した幼虫孔の先端部のうち、長さが5mm未満のものでは、明瞭な変色は認められなかった。それにも関わらず、そこからは複数種の菌が分離された。酵母が最も高頻度に出現し、次いでA. macrosporaが多く出現した。Leptographium属菌も分離されたが、これは同所的に穿孔していたHylurgops属キクイムシ由来であることは確認している。長さ5-10mmの幼虫孔の先端部からも長さ5mm未満の幼虫孔先端部と同様様々な菌が分離されたが、O. ipsの出現頻度が大幅に増加した。またHyalorhinocladiella属の1種が新たに出現した。長さ10-15mmの幼虫孔先端部では酵母とO. ipsが最も高頻度に出現した(それぞれ約43%)。Ambrosiella macrosporaの出現頻度も増加したが、O. ipsほどではなかった。 以上のことから、マツノムツバキクイムシでは、幼虫孔において最初に繁殖するのは酵母とAmbrosiella属菌であり、幼虫孔が伸びるとともに、O. ipsが酵母やA. macrosporaが繁殖している場所に入り込んでいくと考えられた。今回のA.macrosporaの分離は日本で初めての報告である。 マツノムツバキクイムシの幼虫は、生育の初期段階において、酵母とAmbrosiellaを摂食している可能性があり、両菌が幼虫にとって、栄養源として、もしくは栄養改善のために機能している可能性が示唆される。ただし、一方でそれらの出現頻度は100%ではないことから、必ずしも重要な栄養源になっていないとも考えられる。また今回供試できたサンプル数も少ないことから、サンプル数を増やして検討する必要もある。そして今後分離菌を用いた詳細な人工的飼育試験により、各菌の機能を明らかにしてゆく必要がある。

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