日本林学会大会発表データベース
第115回 日本林学会大会
セッションID: E32
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T3 人間活動下の森林における動物群集の多様性・生態的機能の保全
落葉広葉樹林における伐採後の二次遷移に伴うトビムシ、ササラダニ群集の変化
*長谷川 元洋福山 研二牧野 俊一大河内 勇後藤 秀章溝口 岳男阪田 匡司田中 浩
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キーワード: ササラダニ, 群集
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抄録

1. 目的 土壌節足動物は、環境指標性が高く、容易に定量調査が可能なことから、森林の遷移に伴う群集動態の研究が針葉樹造林地等で行われてきている。この研究では、伐採後の経過年齢の異なる落葉広葉樹林を選んでトビムシ、ササラダニ群集を調査し、土壌節足動物群集の落葉広葉樹二次林の遷移に対する反応を明らかにする。また、土壌の物理化学性、有機物層量、植物群集の指数などの環境要因と土壌節足動物群集との関係を検討し、土壌節足動物群集の構造を規定する要因を考察する。2.方法 調査地は茨城県小川群落保護林を中心とする地域で、伐採直後1年目、伐採後4、12、24、51、54、71、128年(ほぼ原生林)の合計8林分にプロットを設けた。土壌動物の調査は2002年の4,8,11月に行った。8mx8mのプロットを2mx4mの8個のコドラートにわけ、各コドラートから1個づつ、合計8個の有機物層サンプルを採取した。サンプルの採取には開口部面積25cm2、深さ5cmの円筒を用いた。採集したサンプルを35℃のツルグレン装置に72時間設置し土壌動物を抽出し、トビムシ、ササラダニは種まで同定を行った。トビムシ、ササラダニ群集の各種を消化管内容物から以下の食性グループに分けた。トビムシはデトリタス食者、菌食者、吸収食者の3グループに分けた。ササラダニは砕片食者、微生物食者、植物遺体食者、汎食者の4グループに分けた。 土壌化学性、土壌呼吸量、林床有機物層量の調査は2003年7月に行った。3.結果および考察 トビムシの個体群密度は1年目が最も低く4年目が最も高かった。ササラダニの個体数密度はどの林分でも同程度で林齢に伴う明瞭な傾向はなかった。トビムシの種数は1年目で低いが4年目で増加し、ほぼ同程度の種数がそれ以降の林齢で保たれた。1年目の林分で吸収食者の減少が見られた。ササラダニの種数は中間的な林齢のサイトが高い傾向があり、伐採直後では低くなる傾向があった。種数の多いサイトでは、微生物食者が多くなった。植物遺体食者の個体数は林齢の低いサイトで多く、汎食者は林齢の高いサイトで多かった。    除歪対応分析(DCA)による座標付けの結果、トビムシではいずれの食性グループにおいても4年目の群集は古い林分の群集とはなれて位置づけられ、4年では群集構造の回復までは至っていないことがわかった。ササラダニでは、群集全体や砕片食者においては4年目と古い林分では近傍に位置づけられたが、微生物食者、汎食者では4年目と古い林分ではかなり離れた位置に位置づけられた。 以上からトビムシ、ササラダニいずれにおいても、伐採直後はその影響を強く受け、種数もしくは個体数が減少するが、4年目には種数、個体数だけから見れば回復がみられることが示された。一方、群集構造からみると、4年目の群集構造はいぜんとして古い林分とはかなり異なっており、群集構造の回復にはより多くの年数が必要と考えられた。 環境変数と土壌動物の個体数、種数との間のスペアマン順位相関係数を求めた。トビムシ群集では全体の種数および、吸収食者の種数がWと正の相関を持った。ササラダニでは全体の個体数、種数と高い相関を持つ環境要因はなかった。一方、食性グループごとでは、微生物食者の個体数がCO2と正の相関、砕片食者がpHW、pHKと負の相関、植物遺体食者がAgeと負の相関を持った。 正準対応分析(CCA)によって、環境要因と群集構造の関係を調べたところ、トビムシでは、全体の群集、菌食者、吸収食者でsp>5が群集構造の違いを説明する有意な変数として選択された。ササラダニ全体の群集および砕片食者ではW、微生物食者ではAge、植物遺体食者ではsp<5、汎食性ではLWのそれぞれが有意な環境要因となった。 以上から食性グループごとに個体数、種数、群集構造に影響する環境要因は異なっていることがわかった。こうしたグループごとによる環境に対する反応の相違が群集全体での解析において、単一の環境要因と明瞭な傾向を示さないことの要因となっている。従ってトビムシやササラダニの環境に対する指標性を考える場合、単に分類群すべての種数、個体数、全体の群集構造を基準にするのでなく、食性等の機能を考慮した上で、指標を選ぶことが重要であることが示唆された。

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© 2004 日本林学会
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