日本林学会大会発表データベース
第115回 日本林学会大会
セッションID: E17
会議情報

T11 森林をめぐる協働・パートナーシップはどこまで進んでいるのか?―現状と課題―
地方自治体によるみどり保全市民活動支援事業の現状 
都道府県・政令指定都市に対する調査から
*矢島 万理土屋 俊幸木俣 知大吉村 妙子
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抄録

近年、市民による森林や緑地等の保全活動が活発化してきており、そうした活動に対して、行政が支援する事業も数多く実施されるようになってきた。その実態は、佐藤・山本(2000)が森林ボランティア活動に対する都道府県の支援事業についてまとめているのみで、森林ボランティア以外の諸活動を含めた、みどり保全の市民活動全般に対する行政の支援については明らかになっていない。そこで本報告では、みどりの保全・管理・活用を目的とした市民活動に対する地方自治体の支援事業について、林務関連部局の行う事業だけでなく、環境関連部局の行う事業も対象範囲に含め、現状把握とその中での市民の位置づけについて明らかにしたい。 支援事業の現状を把握するため、2003年11月に全47都道府県の林務関連部局と環境関連部局、全13政令指定都市の環境、建設関連部局にアンケートを送付した。各部局で2002年度に実施した該当事業を全て記入し、事業ごとに各設問に回答してもらう形式で行った。 分析結果から次の4点が明らかになった。(1)支援事業の有無では、「設けた」が73%と約4分の3を占めることから、ほとんどの部局において、市民活動への支援事業が実施されていることが分かる。(2)事業の主導権の所在では、行政が市民と共に実施する「協働」が最も多く45%、次に「行政」が30%を占めていた。従来多かった行政主導の実施(佐藤・山本2000、調査は1998年)から、変化が起きていることが推測される。今後は事業の主体が、行政→行政と市民→市民と移っていくと考えられるが、現時点ではまだ、市民主体へは移行しきれていないと推測される。これは、事業策定への市民参加の有無をきいた設問と合わせてみると、市民主導の事業であっても事業策定へ市民を参加させていないという回答が77%となっており、市民が完全に主体とはなっていないことがわかる。(3)事業目的では、「市民団体の自立」や「人材養成」といった、行政の手から市民団体を自立させることを目的としたものはまだ少ない。また、事業の主導権の所在に関する回答では「協働」が最も多かったのに対して、目的に関する回答では「パートナーシップ」は少ない傾向が見られた。これらを合わせてみると、行政が市民を事業の共同主体として扱うようになったのは、「パートナーシップ」が目的なのではなく、他の目的を果たすための単なる手段であるようだ。(4)事業策定への市民参加の有無では、「入れた」と「なし」が同数であり、市民参加を取り入れているところが多い。 次に支援内容について見てみると、次の4点があげられる。(1)人に関する支援では、「講座開講」が最も多く53%と、行政から市民へ知識や情報を与える形態が主になっている。しかし自立のための「人材育成」29%や「運営育成」20%も、少なからずあげられていることは注目される。(2)財政面に関する支援では、「行っていない」が最も多く44%、次に「イベント」が31%となっており、成果がすぐに現れるものに対してでないと、支援が難しいという状況がうかがえる。(3)物に関する支援では、「活動場所」が最も多く46%で、「機材」が次に多く41%を占めている。市民の力だけでは確保が困難な面に、支援が向けられているようだ。(4)情報に関する支援では、「技術的な情報提供」が最も多く46%、次に「ネットワーク形成」が多く25%となっている。現時点では、様々な情報が行政へ集まる傾向があると考えられる。 以上をまとめると、アンケート調査の結果から、大多数の都道府県・政令指定都市において、行政が市民と共に事業を行う形で、支援事業に取り組んでいることが明らかになった。しかし支援内容としては、市民に対し、みどりの保全・管理・活用について考え、行動するためのきっかけを提供するという形態が多く、行政と市民の真の協働が実現する段階には至っていない。将来の方向性がうかがえる傾向としては、人材養成を中心とした市民の自立した活動を支援する事業が、少しずつ始まっていることがあげられる。こうした事業により、各地域でリーダー等が増え、市民の声をより確実にくみ上げ、社会へ反映させられる可能性が大きくなり、地域の特性を生かしたみどりの保全・管理・活用の実現へつながるものと考えられる。今後は、行政と市民が連携していく際課題となる、市民活動に対する行政の関与の仕方や、それらを支える市民活動支援機関のあり方について、更なる調査をもとにした研究を行いたい。

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© 2004 日本林学会
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