日本林学会大会発表データベース
第115回 日本林学会大会
セッションID: E09
会議情報

経営 I
北海道の国有林における入林実態とその問題
*高橋 正義
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

 近年,中高年を中心に登山や散策などレクリエーションを目的とする森林利用者が増加しているといわれている。一方で都市部に近い森林を中心として,入林ゲートの破壊や不法投棄などの問題が生じており,その対策が求められている。入林実態の把握は、国立公園内の山岳地域への登山者については調査されている事例があるものの,その他の森林についてはほとんど明らかになっていない。そこで北海道の国有林における入林の実態をモニタリングし,その問題について論じることが本報告の目的である。 調査の対象地である奥定山渓国有林は札幌市の南端に位置し,標高550から1,300mに広がる広さ約11,000haの国有林である。管理担当者への聞き取りから,主に山菜やキノコ,タケノコなどの林産物採取,釣り,狩猟などが行われている。奥定山渓国有林では1969年から高密路網を基盤とする天然林択伐施業を実施しているため,haあたり46.7mの林道網が整備され,3カ所で公道と接続されている。このうち1カ所は定山渓ダム管理用道路に通じていることから,厳しく入林が制限されている。また,隣接地域の林道網とは接続されていないため,林道網を利用した一般車/者の入林は国道230号線と接続する奥定山渓林道及び豊平川林道を通じて行われる。 そこで上記2カ所の林道について,入り口から林道が分岐するまでの間で平坦な直線部分の中から観測に適した場所に,入出林を記録するTrail Traffic Counter(Ivan Technologies社製,以下TTC)を設置し、入林者のモニタリング調査を行った。TTCは赤外線を用いたアクティブ型のカウンターで,赤外線を発するエミッタとそれを受信するディテクタによって構成される。エミッタとディテクタ間を結ぶ赤外線が遮断されるとその時刻を0.5秒単位で内蔵したロガーに記録することが出来る。比較的小型軽量で,長時間観測に耐えるバッテリーを内蔵することから,電源を得ることの出来ない遠隔の森林環境下でも設置,観測することが出来る。TTCの精度はこれまでの実験で非常に高いことが確認されている。 入林は自動車もしくは徒歩によるものと想定し,赤外線が林道上60-80cmを通過し,林道端から3_から_10m程度離してTTCを設置した。TTCは木製杭に設置した木製プレートに固定した。エミッタとディテクタの間隔は約14m(奥定山渓)と約24m(豊平川)であった。ロガーに記録されたデータは1から3週間程度に1度回収した。その際,機器周辺の植生の刈り込みや設置状況の点検を行ない,誤作動を極力排するよう心がけた。観測期間は2003年5月28日から11月13日までの170日間である。北海道開発局中山峠道路気象情報websiteから4時間ごとの天候,気温,風速を入手し、カウンターの誤作動要因や入林の変動要因の分析に用いた。 観測期間中に得られた総カウント数は,15,786(奥定山渓)と,6,697(豊平川)であった。記録されたカウントと中山峠気象情報を比較したところ,奥定山渓では風速8mを超えるとカウント数が極めて高くなること,豊平川では降雪時にカウント数が多くなることが観察された。これらは機器の設置場所の周囲の環境や設置方法によって生じた誤作動だと考えられる。また,間隔5秒以下カウントが日全体のカウントの3割を越えたものも何らかの影響で誤作動が生じたものとした。有効カウント数は,7,149(奥定山渓),6,152(豊平川)となった。日別のカウント数から、平日よりも休日にカウント数が多いこと、天候によってカウント数が増減することが明らかになった。月別のカウント数をみると奥定山渓では6月の入林が過半を占めていた。続いてカウント数の多いのは9月および10月であった。これは山菜・キノコ類の採取を目的に入林する利用者が多いことを示している。ただし,昨冬期に崩壊によって6月に豊平川が利用できない時期があり,豊平川に利用が集中した可能性もある。一方,豊平川では7月が最も多く全カウントの3割を占めていた。しかし,6月,10月,8月のカウント割合も少なくない。これは山菜の採取に加え,釣りなど季節を通じての利用があるためと考えられた。 奥定山渓国有林では徒歩での入林は認めているものの,車両を使った入林は認めていない。しかし,現地での調査から観測されたカウントはその多くが車両によるものであり,現在国有林で行っているゲートを用いた車両入林規制はほとんど機能していない。入林規制と入林管理の実態の乖離は今後解消しなければならない問題であるといえる。

著者関連情報
© 2004 日本林学会
前の記事 次の記事
feedback
Top