日本林学会大会発表データベース
第115回 日本林学会大会
セッションID: D25
会議情報

T16 どうする? 多面的機能に応じた森林区分
森林区分のための「森林の機能」の概念整理
*光田 靖伊藤 哲
著者情報
キーワード: ゾーニング, 森林の機能, GIS
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

養機能または山地災害防止機能を重視する「水土保全林」,(2)生活環境保全機能または保健文化機能を重視する「森林と人との共生林」,(3)木材等生産機能を重視する「資源の循環利用林」へと3区分し,これにあわせた森林施業を行うことを基本方針としている.では,ここでいう「重視すべき機能」とはどのように決定されるものなのであろうか.まず,そこで問題となるのが「森林の機能」をどう評価するかということである.「森林の機能」を議論するとき,さまざまなレベルでの機能が混在しており,これを認識していないことによる混乱が生じていると感じる場面がみうけられる.よって,「森林の機能」の概念を整理することにより混乱を排除し,よりよい森林管理へ向けた充実した議論を可能にする必要があるであろう.まず,森林を土地とその上に成立する林木からなる構造体として捉え,その構造がさまざまな資源利用目的に対して潜在的にどのような効果をもたらしうるのかを「森林の機能」と定義する.この「森林の機能」は土地の特性と林分構造により規定されるが,土地の特性には地形や気象条件といった人為により不可変な自然的立地条件と,林道などの生産基盤や地域林業の活発さなどの社会的立地条件とに分けられる.一方で,林分構造は自然的立地条件により規定される資源の豊富さや,人為および自然撹乱の履歴そして施業の影響により規定される.このように「森林の機能」を議論するときにはその立地特性と林分構造を把握しなければならない.この「森林の機能」がある期間ある条件で発揮されて実際にどのような「効果」を生むか,また生んだかが評価される.木材生産機能を例にとれば,ある流域からある期間に算出された木材の量をもって「効果」が評価される.さらにこの「効果」はある価値基準に従い評価され「価値」へと変換される.先の例では,産出された木材は林業経済の価値基準から貨幣価値へと換算されたり,温暖化防止の価値基準から炭酸ガス固定量へと換算されたりする.ここで気をつけたいのが「効果」や「価値」をもって「森林の機能」を評価するとき,それはある条件や期間での限定的な評価であるということである.例えば,現在人工林である森林は蓄積が高く,林道も近くて木材生産機能が高いと評価されるかもしれない.しかし,それは現在人工林であるという林分の構造および既存の生産設備に由来するものである.これら林分の構造や生産設備は,先にも述べたように,人為によって改変可能なものであり,自然的立地条件からすると生産力が低く,林業生産に向いていない場所であるかもしれない.「森林の機能」の評価が限定的なものにならざるを得ない以上,森林を区分する基準として「森林の機能」を評価するとき時間,空間スケールにあわせた条件設定をする必要がある.今回は先の発表で提示した地域レベルでのゾーニングを対象とし,ゾーニング方法のプロトタイプを示す.時間スケールが長期であるため,「森林の機能」として評価されるのは人為による改変が不可能な自然的立地条件とする.また,「重視すべき機能」を選定するというより,どのような自然的立地条件でどのような森林管理を目的とするかのポリシーに従い区分してゆく.例えば,生産性が高く,撹乱の頻度が低い場所で木材生産を優先的に目的とするべきであろうし,生産性がある程度高く,しかし撹乱の頻度もある程度あるような場所では,より水土保全機能などに配慮して生産を行うことを目的とすべきであろう.ここでは,例に挙げたように土地の生産性および安定性を評価軸として「森林の機能」を評価する.「森林の機能」の概念を整理し,その枠組みの中でゾーニングの目的に見合った「森林の機能」を評価することで,説得力のあるゾーニングが可能になると思われる.

著者関連情報
© 2004 日本林学会
前の記事 次の記事
feedback
Top