日本林学会大会発表データベース
第115回 日本林学会大会
セッションID: D23
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T16 どうする? 多面的機能に応じた森林区分
生産システムの最適化と森林の機能区分
*岩岡 正博保科 典之峰松 浩彦
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抄録

1 はじめに
 森林の多面的な機能の中で、木材などを生産する経済的機能は、他の環境保全機能などを損なうことが無いよう、森林の環境容量の範囲内で利用する必要がある。そこで、持続可能な森林の利用・管理が世界的に必要とされており、適切な機能区分を行って、利用可能な森林と保護すべき森林を明確にする動きが強くなってきている。
 演者らは、森林の環境保全機能と経済的機能とを両立させることを目指して、森林の経済的機能を重視して機能区分を行う手法を研究してきた(1,2)。その中で木材生産の立場から森林の機能区分を行う手法を示し、昨年の第114回大会では生産システムの違いによる機能区分結果の変化を報告した。今回は、木材生産の経済性を向上させるために、最適生産システムを分析し、面積過小で採算性が得られなかった林分を統合して扱う効果を明らかにすることを目的とする。
2 森林の機能区分手法の概要
 森林の機能区分を行う手法は、前2報で報告しているとおり、地位指数で表わされる土地の生産力、架線の架設可能性を決定する地形条件、作業の採算性を決定する経済条件をそれぞれ用いて林地をランク分けし、これらを組み合わせて区分する。ここで集材作業は、急傾斜地に対応可能なエンドレスタイラー式架線集材とタワーヤーダ集材を比較し、造材作業はチェーンソー造材とプロセッサ造材を比較する。
3 対象地の概要
 解析の対象としたのは東京都下の民有林であり、総面積50564.0ha、林班数289、準林班数790、小班数21,501、枝番数65,526である。この対象地は前2報よりも拡がっており、面積で約20倍、枝番数で約47倍となっている。林相はスギ人工林47%、ヒノキ人工林11%、ミズナラ10.9%、コナラ9.7%、カラマツ1.9%、ブナ1.3%、アカマツ1.2%、タケ0.1%、その他広葉樹14.5%、その他針葉樹1.2%、樹種なし1.2%である。また林内路網密度は14.3m/haである。
4 結果と考察
 架線架設距離と伐出費用との関係から、出材量が大きくない場合は、タワーヤーダの集材可能範囲はタワーヤーダを用いた方がエンドレスタイラー式よりも費用が低い。しかし、出材量が大きくなって、例えば5,000m3あると、架設距離が100m程度であってもエンドレスタイラー式の方が費用が低くなった。すなわち、規模が大きい場合は、架線集材は経済的な搬出方法となる。また、出材量が100_から_500m3の間で生産費が最も低くなるのは、架設距離が短かい方から小型タワーヤーダ、中型タワーヤーダ、大型タワーヤーダの順になるが、その境界値は出材量100m3では約100mと 300mであるのに対し、出材量が500m3になると約150m3と250m3となる。すなわち、出材量が増すにつれて、中型タワーヤーダの適地が狭くなる。
 次に、林道からの距離が短かいにもかかわらず、採算性が得られない林分は、面積が過小であるために、最低限必要な出材量を確保できないことが原因と考えられた。そこで、そのような林分の周囲に樹種ならびに林齢が同様な林分があるならば、それらを統合して伐採することを考えた。面積過小と判定された林分に接して、樹種が等しく、林齢が同じ階級に属する林分を統合して一つの林分にする操作を行った後、再度機能区分を行った。その結果、対象地内全てをスギ人工林の候補地と仮定した場合、全体の12.3%が面積過小林分から他の機能へと区分され直し、11.8%だけ木材生産区が増加した。
5 おわりに
 ここで示した機能区分手法は、木材生産機能を重視して設計した。しかし、本来の森林の機能区分のためには、樹木生理の条件、哺乳動物の生息条件、鳥類の生息条件など様々な条件を考慮する必要がある。ここで構築したGISを利用したシステムは、これらの条件も容易に導入し得るので、専門家の知識を集結させることによって、森林の取り扱い指針を構築できるであろう。

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© 2004 日本林学会
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