日本林学会大会発表データベース
第115回 日本林学会大会
セッションID: D21
会議情報

T16 どうする? 多面的機能に応じた森林区分
住友林業における長期循環施業への取組
*岡田 広行
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

1.社有林の施業方針住友林業は北海道・和歌山・四国・九州に約40,500ha(国土面積の1,000分の1)の社有林を保有し、永きに渡り計画的な森林施業を実施してきた。1904年には民間では国内初の「施業案(森林計画)」を編成している。社有林の施業方針は、社有林に対する社内外の様々な要請に対して、「サスティナビリティ(持続可能性)の確保」をもって応えるというものであり、平成5年より社有林全域において「非皆伐施業」を取り入れている。2.「非皆伐施業」としての「長期循環施業」の導入このように近年は「非皆伐施業」を推進するため、「単木間伐の繰り返しによる密度管理」を中心に行ってきたが、戦後拡大造林した森林資源が成熟してきたことに伴い、更新を前提とした「長期循環施業」へと徐々に移行する必要が出てきた。「長期循環施業」は、林野庁が平成13年度より「長期育成循環施業」として推進してきた施業法でもあり、上層木(以下、上木)の伐採による密度調整、および植栽等による下層木(以下、下木)の導入・複層林化を実施するものである。ただしこれまで採用してきた「単木択伐→樹下植栽」という施業は、(特に下木の成長管理のために)集約的な管理および技術が必要となること、また上木を伐出する際にコストがかかり、下木を傷める可能性もあること、などの理由から、当社では上木をある程度まとまった面積(0.1_から_0.4ha)で群状に伐採し、その跡地に植栽する「群状択伐施業」を採用している。3.「群状択伐施業」の課題サスティナビリティ(持続可能性)を確保するためには、「持続的経営林の5つの要件(渡邊,1995)」である高成長・高蓄積・高収益・水土保全・生物多様性を確保する必要がある。(溝上, 2003)実際には「群状択伐施業」を設計する際に、その「設定項目(伐採区の面積・形状・方位・周期、集材方法、下層植栽木の樹種・植栽密度など)」を「与えられる環境条件(上木の林況・地形条件)」に応じて臨機応変に変更しなければならないが、この作業を簡素化・平準化するために、基礎データ(伐採区内の光環境の推定・下層植栽木の成長予測・集材コスト試算など)を収集し、GISによる「設計支援システム」を構築する必要がある。4.伐採区内の光環境の推定この基礎データの収集とGISによる設計支援システムの構築について、平成14年度より宮崎大学農学部森林科学講座森林計画環境学研究室と共同研究を実施しているが、第一に伐採区内の光環境の推定をテーマとしている。この2年間の成果としては,以下のことが明らかとなっている(谷川, 2002; 小濱ら, 2004)。◎スギ下木の樹高生長は、伐採区の周辺部(東西の林縁からは上木平均樹高×約0.5の距離以下、南縁からは上木平均樹高×約0.7の距離以下)で低下する傾向にある。◎同じ伐採区面積であっても斜面角度・伐採区の形状・斜面の向き・上木樹高・上木本数密度によって光環境は変化する。それゆえ群状択伐の設計の際には伐採区の大きさのみにとらわれず様々な要素を総合的に判断する必要がある。5.森林の多面的機能の発揮について平成15年に森林法が改正され、森林を重視すべき機能に応じて区分することにより、適正な森林の整備および保全を推進することとなった。市町村森林整備計画における三区分が適当であるかどうかは別として、森林に対する国民の多様な要望を満たすため、また公共的な投資を拡充するためにも何らかの指標となる森林の機能区分は必要であろう。だが本来、森林は適正な管理を施すことによって、その多面的機能を同時にかつ最大限に発揮する可能性を秘めているともいえる。当社では経営環境を含めた、与えられた環境条件に対して、「群状択伐施業」を始めとする適正な施業方法を選択・検証することにより、先述した社内外のさまざまな要請に応えられる社有林の管理・運営を行っていきたいと考えている。

著者関連情報
© 2004 日本林学会
前の記事 次の記事
feedback
Top