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第115回 日本林学会大会
セッションID: C39
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造林 II
絶滅危惧種ヤクタネゴヨウ未成熟種子からの不定胚形成と植物体の再生
*丸山 エミリオ細井 佳久石井 克明
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抄録

絶滅危惧種ヤクタネゴヨウ未成熟種子からの不定胚形成と植物体の再生○丸山エミリオ、細井佳久、石井克明(森林総研) 1. はじめに 日本野生生物のレッドデータブックに1)絶滅危惧種IB類として指定されているヤクタネゴヨウ(Pinus armandii var. amamiana)は、鹿児島県の種子島と屋久島に1,500_から_2,000本ほどが残存しているのみと推測される日本固有種の五葉松である。そのため、当種の現地(in situ)ならびに現地外(ex situ)保護・保全が望まれている。現地外での保全は、かなりのスペース、労力、費用を要するとともに、人類や自然現象による災難等の影響に伴う大きなリスクを背負っている現地保全に対して、低コスト的に少ないスペースで様々な器官を長期保存することが可能である。我々は、以前から特に現地外における樹木の遺伝資源保全のため、一つの手段として組織培養技術を用いて針葉樹や熱帯樹木等について増殖とフラスコ内(in vitro)での資源保全の研究を進めている。今回は、同様な目的で、不定胚を経由したヤクタネゴヨウの個体再生条件について検討した。2. 材料と方法 2002年7月上旬に、鹿児島県林業試験場内に植栽されている屋久島由来の5個体および鹿児島市内の磯庭園の1個体から球果を採取し、それらを実験に供した。種子は100%エタノールで洗浄した後、2.5%次亜塩素酸ナトリウムで30分間表面殺菌した。滅菌水で洗浄した後、未成熟種子胚を含む雌性配偶体(megagametophyte)を摘出して、2,4-ジクロロフェノキシン酢酸(2,4-D)と6-ベンジルアミノプリン(BAP)を含むEM培地2-3)に移植し、暗黒下25℃の環境で培養した。誘導した不定胚形成細胞を3週間ごとに植えつぎ、維持・増殖させた。増殖した不定胚形成細胞は、活性炭やポリエチレングリコール(PEG)の濃度を変化させたマルトースやアブシシン酸(ABA)を含むEM培地上で2ヶ月間培養した。成熟した不定胚は、植物成長調節物質を含まないEM培地に移し、16時間照明(約5,000 lx)の環境下で培養を行った。3. 結果と考察 培養開始から1週間ごとに実体顕微鏡下で観察を行った。ほとんどの外植体については、組織全体の膨張が観察されたが、不定胚形成細胞の誘導頻度は極めて低かった。それらのうち、1つの外植体から誘導された不定胚形成細胞は、3週間ごとに維持・増殖し、不定胚誘導の検討実験に用いた。 不定胚誘導培地上で培養すると、細胞の発達が進むにつれ胚様の形態を示すものが見られた。培養開始2ヶ月後に、マルトース、ABA、PEGと活性炭を組み合わせた培地の場合に誘導された不定胚の数が最も多かった。 子葉が分化した不定胚は、植物成長調節物質を含まない固形培地上に移植すると、約5割が発芽した。発芽した個体をさらに、同一の培地又は肥料を含むバーミキュライトやフロリアライト培養土等に移植すると幼植物体に成長した。4. おわりに 今回は、不定胚を経由したヤクタネゴヨウ個体再生に必要な条件をほぼ確定した。現在、この効率を向上させるため、さらに種々の培養条件等を再検討している。材料を提供していただいた鹿児島県林業試験場の小山孝雄氏に感謝します。5. 引用文献1) 環境庁(2000)改訂・日本の絶滅のおそれのある野生生物-レッドデータブック- 8 植物I(維管束植物).自然環境研究センター2) Maruyama, E. et al. (2000) Plant Biotech. 17: 281-2963) Maruyama, E. et al. (2002) J. For. Res. 7: 23-34

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© 2004 日本林学会
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