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第115回 日本林学会大会
セッションID: C35
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造林 II
当年生オオバアサガラ苗木の生長に及ぼす陽光量の影響
*石井 祥子今井 はるか菅原 泉河原 輝彦
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抄録

1.目的 東京農大奥多摩演習林が位置する奥多摩地域は、シカの食害より農作物の被害が多発している。森林内においては、食圧により下層植生がほとんど見られず、林地保全に好ましい状況下にない。しかし、演習林内においては、ギャップ状の空間にオオバアサガラが群生している箇所がいたるところに見られたので、本種はシカが好まない樹種の一つであると考えられた。そこで、オオバアサガラを人工林の下層木に導入し、林地保全に資することを検討することにした。これまでに調査を行った結果、本種は、陽光量、地形要因などに生育が影響されていることを明らかにしてきたが、本研究は稚樹の更新に必要な陽光量について検討することにした。2.方法 実験区は温室内に設け陽光量の設定は、縦・横・高さが1mのラックに寒冷紗を張り付けて、相対照度を50%、30%、5%に調整した。対照区は寒冷紗を張らない100%とした。 稚苗の種子は、2002年の10月に奥多摩演習林内のオオバアサガラから採取したもので、5月中旬に室温が23℃前後の温室内の砂地に播種した。発芽した稚苗は1/5000ワグネルポットに4本ずつ移植した。一つのラック内には、4個のポットが入り、1プロット当り16本の稚苗とした。潅水は、ポットの表面が乾燥しないように行い、液肥を2週間に1度行った。 観察項目は、移植後の稚樹伸長量と根元直径を1週間ごとに行い、観察終了後には現存量、葉枚数と葉面積を計測した。3.結果及び考察当年生稚苗の伸長量を1週間ごとに測定した。移植後約2ヶ月後から伸長量に変異が見られた。その結果、観察終了の3ヶ月後には最も成長した50%のプロットで17cm、次いで30%の14cm、遮光しなかった100%のプロットは3番目の9cmとなり、最も小さかったプロットは、5%の5cmであった。50%と30%のプロットは、観察終了時まで伸長し続けたが、100%と5%のプロットは、8月中旬以降ほとんど伸長しなかった。根元直径の大きさも伸長量と同様な推移になり、最終的には50%のプロットが最も大きく、次いで100%と30%になり最も小さかったプロットは5%でほとんど成長していなかった。稚苗の伸長と根元直径の大きさは、陽光量の違いで大きく影響されることが明らかとなったが、対照区が遮光したプロットよりも抑制されたことについては、遮光内よりも高温に成り過ぎた結果と思われる。 観察終了時のプロット当りの平均葉枚数と葉面積の結果から、平均葉枚数では、5%プロットが10枚であった以外はほぼ同数の15枚程度であった。しかし、葉枚数に違いが見られなかったプロットでも葉面積では、50%の4,755cm2、30%の3,563 cm2100%の1,556cm2となりプロット間に違いがみられた。特に5%プロットでは葉面積が葉枚数と同じくプロット中の最低となり1,098 cm2になった。これらのことから、100%のプロットで葉数に対する葉面積が小さくなったことは、気温の上昇により植物体から水分が失われやすい状況にあったので、蒸散を抑制するために葉が十分に展開できなかったものと考える。また、5%のプロットは、陽光量不足のために葉数と葉面積が小さくなったものと思われる。稚苗の現存量も葉面積の結果と同じ傾向を示し、最も小さかったプロットは5%の0.4 gであったが、相対照度が高くなるにつれて平均個体重量が大きくなり50%プロットで最高値の15.3 gを示した。しかし、100%のプロットでは葉・茎の器官が30%のプロットよりも小さくなる傾向を示した。特に100%のプロットは、他のプロットに比べて根の重量比率が高い傾向を示した。このことは、気温の上昇と共に葉の蒸散が促進されたために、水分を供給する根が発達したものと考える。4.まとめ オオバアサガラの稚樹の成長は、光の影響が最も大きく作用するが、極端に気温が上昇するような環境下では、抑制されることが明らかとなった。今後は、現地における播種試験等を実施し、さらに検討したい。

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© 2004 日本林学会
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