日本林学会大会発表データベース
第115回 日本林学会大会
セッションID: C32
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造林 II
年輪幅・炭素同位体比測定による中国黄土高原に生育する樹木の耐乾特性
*伊藤 知美福田 健二佐々木 治人飯山 賢治常 朝陽
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抄録

 中国における砂漠化の主な原因は過度の伐採、過放牧、過度の農耕など人為的なものである。このように砂漠化した土地をもとに戻すには緑化が必要であり、これまで中国・日本政府やNGOによって中国黄土高原に植林が行われ大きな成果をあげている。しかし、その基礎となる樹木生理学的な検討は不十分な点が多く、1970年代の植林地では成長に伴う水分消費の増大と土壌中の貯留水分の枯渇によると思われる小老樹(枝枯れを繰り返し樹高成長が頭打ちとなったポプラ)の発生がしばしば見られる。従って、植林樹種を選定する上で樹木生理学的な検討を行い各地域に適した耐乾性の強い樹種を選抜することは大変重要である。炭素安定同位体比(d13C)の測定は、C3植物の水利用効率の推定に有効であることが知られている。植物の葉が気孔を開いて大気のCO2を取り込むとδ13Cの値が小さくなり、気孔を閉じているとδ13Cの値が大きくなるという性質を利用して、主に耐乾性の強い作物品種の選抜などにおいて多くの成果を上げている。そこで、本研究では各地域に適した植林樹種の選定を行うための基礎として、年輪幅と炭素安定同位体比を測定し、中国黄土高原に生育する樹木の耐乾性を調べた。 研究方法は、まず黄土高原から採取した樹木の年輪・早材・晩材幅を測定し、降水量・気温との相関を調べた。各年の幅を5年移動平均値で割り標準化した年輪幅指数を用いた。年輪幅は年降水量と年平均気温、早材幅は前年10月_から_6月の降水量、当年4月_から_6月の平均気温、晩材幅は当年7月_から_9月の降水量、平均気温と比較した。次に早材、晩材から抽出したセルロースの炭素安定同位体比(d13C)を測定し、同様に降水量、平均気温との相関を調べた。また、早材・晩材のd13Cと早材・晩材幅との関係も調べた。サンプル採取地は中国の陝西省延安市安塞県沿河湾で年降水量531 mm、年平均気温8.8℃である。降水量の年変動が大きく、7月_から_9月に集中する。サンプルは油松(Pinus tabulaeformis)、刺槐(Robinia pseudoacasia)等の樹木の高さ1.2mから南北方向に採取したコアサンプル、円板サンプルを用いた。研究結果は次のようになった。まず年輪・早材・晩材幅と降水量・平均気温との関係を調べたが、年輪幅指数と降水量・気温との間に有意な相関は得られなかった。次に炭素安定同位体比と降水量・平均気温との関係を調べた。晩材のd13Cと降水量は高い負の相関(R2 = _-_0.659、p = 0.0061)があり、降水量が多いほど気孔を開いて光合成を行っていると推測される。また、晩材のd13Cと平均気温は高い正の相関(R2 = 0.814、p < 0.0001)があり、気温が高いと乾燥し気孔を閉じていると考えられる。重回帰分析の結果、炭素安定同位体比と降水量・気温の関係式 d13C = _-_0.004P + 0.900T_-_39.938が得られた(P:降水量、T:平均気温、R2 = 0.760、p = 0.0002)。以上の結果から晩材形成には7_から_9月の気温および降水量が大きな影響を与えると考えられる。早材形成に影響する時期は不確定であり、今後の検討が必要である。 結論として、年輪・早材・晩材幅と降水量・平均気温との間に高い相関は得られず、年輪の成長には気象条件以外の影響も大きいと考えられる。一方、晩材の炭素安定同位体比と降水量・平均気温との間には高い相関が得られ、気孔の開閉には気象条件が大きく関与していることが示唆された。従って、炭素安定同位体比と気象データの関係をもとに耐乾性のある樹種の選定を行うことは有用であると考えられる。

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© 2004 日本林学会
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