日本林学会大会発表データベース
第115回 日本林学会大会
セッションID: B11
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T9 技術者教育プログラムと人材育成(日本林学会JABEEセッション)
JABEE試行審査受審校からの報告
JABEE審査に何が期待できるか?
*田坂 聡明
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キーワード: JABEE
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抄録

 本報告では平成14年12月に行われた、宇都宮大学森林科学科プログラムのJABEE試行認定受審の経過と、結果の概要、今後の審査に望む点を述べる。 試行審査に向けての取り組みが正式に開始されたのは、平成14年度の試行審査受審が決定された平成13年3月の学科会議からである。その後、学科FD委員会を中心とするJABEE小委員会が設けられ、JABEE事務局との対応や自己点検書作成のための検討が開始された。さらに、同年8月中旬に開催されたJABEE研修会へ全委員が参加し、JABEE審査に対する認識を深めてた。その後、8月31日付けで日本林学会JABEE委員会より審査チーム決定の連絡が入り、自己点検書作成の役割分担と、必要書類目録の作成など、本格的な作業が開始された。自己点検書の作成には2ヶ月ほどの時間を要し、自己点検書を審査チームの各メンバーに発送したのは、10月28日であった。その後も宿泊などに関する審査長との打ち合わせが続いたが、自己点検書に関する事前の質問は寄せられなかった。 審査結果の大部分については、自己評価とほぼ等しく満足のいく結果であった。しかし、審査前から気にかけていた、基準1一般要件(b)、いわゆる「技術者倫理」と、基準3.3教育組織の「教員の教育貢献に対する評価方法の開示と実施」の2点にD評価、3.3教育組織の「教員の質的向上を図る仕組みとそれに関する活動の実施」に関する基準でW評価となるなど、 何点かについては、予想以上に厳しい判定であった。これらの判定については、実地審査最終日の面談で審査チームと議論を行い、後日自己点検書の修正と証拠資料の追加を行った。 実際に審査に向けた自己点検書作成時に受けた素直な感想は、証拠書類集めの煩雑さであった。特に、学科、学部で暗黙の了解事項の裏付け書類や、学科内の小委員会の議事録など、これまでの大学運営では保管の必要すらなかった書類を、過去にさかのぼって揃えなければならなかった点は大いに苦労した。また、各大学の自主性を強調しながら、統一的な教育目標への対応や、画一的な技術者倫理教育を求めるなど、JABEEの進め方自体に疑問を感じる点も散見された。特に、森林科学分野における「技術者倫理」については、まだ分野での位置づけさえ出来上がっていない状況にあり、新たにカリキュラムを起していくのは拙速ではないかと考える。当面は、JABEEの定義にあるとおり「技術が社会や自然に及ぼす影響や効果,および技術者が社会に対して負っている責任に対する理解」であると素直にとらえ、森林科学分野の様々な専門科目でどのように「技術者倫理」を捉えるべきかをまとめ、森林分野共通の倫理を構築すべきと考える。また、FDについても、ただ単に授業の相互参観や講義の補助機器の使用法の研修会の有無を強調するのではなく、各大学にあった改善のための取り組みを積極的に示していくべきであると考える。これらの取り組みが、JABEE審査の自主的な基準改善、質の向上につながっていくのではないかと考える。 今回のJABEE試行審査を全体として評価すると、自分たちの教育プログラムを見直し、改善していく上で絶好の機会を与えてくれたと考える。特に、わずかの期間に、学科の若手を中心に、教育目的、カリキュラムなどに対する共通認識、改善意識が出来上がった点は特筆に値すべきと考える。

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© 2004 日本林学会
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