日本林学会大会発表データベース
第114回 日本林学会大会
セッションID: P2051
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立地II
バイカル湖湖底堆積物BDP99の花粉分析結果
*志知 幸治河室 公康長谷 義隆
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抄録

現在において様々な植生が見られるバイカル湖流域は、過去においても植生変遷に地域的な差異があったと考えられる。バイカル湖流域の植生変遷を詳細に明らかにするためには、さらに多地点で湖底堆積物の花粉分析を行う必要がある。そこで、バイカル湖南部セレンガ川沖の堆積物を用いて花粉分析を行い、過去約30万年間の植生変遷の復元を行った。そして、アカデミシャンリッジにおける植生変遷の結果と比較した。1999年冬季にバイカル湖南部のセレンガデルタの外側に谷を隔てて位置するポソルスカヤバンク(水深201m)で湖底堆積物が掘削された(BDP99コア:全長300m)。この試料は主に粘土および砂から成っており、ケイ藻殻化石はほとんど含まれず、セレンガ川からの流入堆積物を主成分とすると考えられている。BDP99コアの表層から100mまで約1m毎に花粉分析用の試料を取り出して分析を行った。花粉分析を行った結果、各花粉分類群の出現傾向から、樹木花粉が高率で検出される時期、草本花粉が高率で検出される時期および花粉がほとんど検出されない時期の三つの時期に分類することができた。 樹木花粉が高率で検出される時期は、現在を含めて100mの間に9回認められた。樹木花粉ではマツ属の出現率が最も高く、その割合は50-90%であった。次いでトウヒ属が多く、モミ属も10%程度見られた。また、ハンノキ属やカバノキ属は5%程度見られた。一方、草本花粉はヨモギ属やイネ科などが若干見られた。花粉含有量は非常に多く、10万粒/cm3以上に達した。この時期は温暖であり、森林(シベリアタイガ)が広く流域を覆っていたと考えられる。草本花粉が高率で検出される時期は、100__から__90mおよび75__から__65mにおいて顕著に認められた。草本花粉が多く見られ、特にヨモギ属の出現率が30-60%を占めた。ヨモギ属以外のキク科やアカザ科も多く、イネ科やカヤツリグサ科も増加した。樹木花粉では、カバノキ属、ハンノキ属およびマオウ属の占める割合がAの時期よりもやや増加したが、マツ属やトウヒ属は著しく減少した。花粉含有量は樹木花粉が高率で検出される時期に比べて少なかった。この時期は寒冷乾燥化し、流域はステップが優勢であったと考えられる。花粉がほとんど検出されない時期は、深さ40m以浅で6回認められた。主にヨモギ属やアカザ科の花粉が検出されたものの、花粉含有量は極めて少なく、1000粒/cm3未満であった。Kawamuro et al.(2000)は、堆積物中の花粉含有量の少ない時期は寒冷砂漠であったとしている。花粉がほとんど検出されない時期は、草本花粉が高率で検出される時期よりもさらに寒冷乾燥化し、流域の植生は乏しかった(寒冷砂漠)と考えられる。以上のことから、樹木花粉が高率で検出される時期は間氷期や亜間氷期、草本花粉が高率で検出される時期および花粉がほとんど検出されない時期は氷期に対比されると考えられる。今回の結果を、志知ら(2000)が行ったBDP96コアの過去30万年間の花粉分析結果と比較すると、BDP96には草本花粉が高率で検出される時期がない点が大きく異なっていた。また、樹木花粉が高率で検出される時期においてBDP99がモミ属の出現率が高い点と、カラマツ属の出現率が低い点でBDP96と異なっていた。

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© 2003 日本林学会
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