日本林学会大会発表データベース
第114回 日本林学会大会
セッションID: P1170
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樹病I
ヒノキの胸高直径と残枝の付かない初回生枝打ちの関係
*斉藤 直彦在原 登志男
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抄録

1.はじめに
 ヒノキ漏脂病の発生誘因の一つは枯れ枝の巻き込みで,枝の基部や粗皮に付いたCistella菌が樹体内に取り込まれて発病するものと考えられる。さらに,生枝打ちによって生じた長さ2,3mmのごくわずかな枯れ枝,すなわち枝打ち残枝(切っかけ)等も本病の発生誘因となることが判明した。このため,枝打ちは,本病予防のため,わずかな残枝も残すことができない。そこで,ヒノキ樹体の大きさ(胸高直径)と初回生枝打ちによって生じる残枝の付着割合を調査した。
2.調査方法
 調査林は,海抜高が430__から__520mに位置する阿武隈山地の川内村,鮫川村および塙町のヒノキ4林分で,いずれも未枝打ち林である。林分の林齢は13__から__16年生で,平均樹高は4.5__から__7.5mであった。生枝打ちによる残枝の付着状況調査は,2002年6__から__7月にかけて行った。林分ごとにおおむね20本の立木を対象とし,胸高直径を測定後,うっ閉していない林分では1mmほどのきわめて細い枯れ枝,そしてうっ閉した林分ではこれに加えて,枯死した枝を除く生枝を高さ2mほどの範囲まで落とした。1本当たりの枝打ち本数は,13(平均)/8__から__25(範囲)本であった。枝の切断はノコを用い,幹に接して幹と平行に行った。そして,切断面に現れた残枝の付着状況を調査した。
3.結果と考察
 枝を打ったヒノキの総本数は74本であった。また,川内村と鮫川村の計2林分はうっ閉した状態でなく1mmほどのきわめて細い枯れ枝を除くと,枯れ枝の発生は少なかった。しかし,塙町と鮫川村の残り1林分の計2林分はうっ閉状態にあって,かなりの枯れ枝が発生していた。
 これによると,両者はR2=0.74(n=74,P<0.01)の関係にあって,胸高直径がおおむね6cmを越えて,太くなるほど残枝の付着割合が高まった。うっ閉した林分では、胸高直径が太いものほど調査範囲内に着生している生枝の活力低下が著しく,枝の付着部にくぼみが生じて幹と平行に枝を打っても残枝が付着し,付着割合が高まったと考えられた。さらには,既に巻き込まれている状況の生枝も見られた。また,うっ閉していない林分でも,胸高直径が太いものほど着生している生枝間に活力の差が生じ,残枝の付着割合が高まったと推定された。なお,注1のヒノキは胸高直径が5.2cmで,18本の生枝を落としたが,残枝の付着割合が44%と高かった。この理由は太さ2,3mmの細い生枝が多数着生し,一部で活力の低下が起こり,幹部への巻き込みが始まっていたためである。
 漏脂病は,数mmの残枝からも発病すると考えられることから,初回の枝打ちは胸高直径が5cmほどに達した時点,すなわち襟(カラー)の発達も少なくかつ枝打ちによって残枝の付着しない状態で行う必要がある。また,胸高直径が6cmほどに達したものに対して枝打ちを行う場合は,枝着生部にくぼみが生じていたり,また生枝の巻き込みが始まって,枝打ち切断面に残枝がたまに付着することに留意し,枝基部を少し深めに削って取り除く必要がある。なお,胸高直径が7,8cmに達したものにあっては,くぼみが大きくまた巻き込まれた枝が材深くまで存在することになり,残枝の完全な削り取りは不可能に近いものと考えられる。
 以上述べたことから,漏脂病の発生を予防するための初回の枝打ちは,ヒノキの直径が5cmほどに達した時点で成育にさほど支障のない生枝を幹に接して幹と平行に落とす。また,6cmほどに達したものに対しては,切断面に残枝がたまに付着することに留意し,少し深めに削って取り除く。さらに,本病は大きな傷口からも発生すると予想されるので,枝打ち切断面は出来るだけ小さくすることが必要である。なお,今回は1mmほどのきわめて細い枯れ枝を調査の対象から外したが,これも本病の発生誘因となることから,枝打ち時には全ての枯れ枝を切り落とし,枝基部に巻き込まれた枯れ枝を出来るだけ取り除く必要があると考えられる。

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© 2003 日本林学会
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