日本林学会大会発表データベース
第114回 日本林学会大会
セッションID: R03
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T13 森林の分子生態学--植物,菌類そして動物--
SSRマーカーを用いた日本産ダケカンバ(Betula ermanii)の地理的分化解析
*宮下 直哉練 春蘭呉 炳雲寳月 岱造
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抄録

1.目的
 現在までに様々な植物を対象とした、様々なスケールにおける集団間遺伝的変異の研究が多数行われている。しかし、日本の木本植物に対して分布域の大部分に渡って広範囲にこのような研究が行われたのは現在のところ、ブナ(Fagus crenata)のみである。アロザイム、ミトコンドリアDNA、葉緑体DNAをマーカーとした研究が進められた結果、最終氷期における分布域の南下と再北上、リフュージアの存在などが明らかにされてきた。
ダケカンバ(Betula ermanii)は亜高山帯に生育する落葉高木であり、低木状となって樹木限界付近まで分布している。また、先駆的樹種であり山火事跡地などで大群落を作る。日本においては北海道、本州(北中部)、四国の山岳地域に分布していることが知られている。花粉、種子共に風散布であり、重力散布・動物散布のブナとは散布距離が大きく異なると考えられる。また、生育適温もブナより低い。
 本研究では、ブナとは生態的特徴の異なるダケカンバを対象に葉緑体DNA、核DNAのSSRマーカーを用いて、1)本州中部以東における地理的変異、2)独立峰である富士山における集団間の変異を解析することを目的とした。
2.材料と方法
 2001年夏、2002年夏__から__秋にサンプリングを行った。東京大学農学部北海道演習林、八甲田山、八幡平、栗駒岳、鳥海山、蔵王山、吾妻山、赤城山、八ヶ岳、富士山(11プロット)、塩見岳、権兵衛峠、乗鞍岳の計13山系、各5__から__30個体から新鮮葉あるいは冬芽を採取、乾燥の後、改良CTAB法によりDNAを抽出し解析に用いた。
葉緑体SSRマーカーにはCpBepl02、CpBepl03、CpBepl05の3遺伝子座を、核SSRマーカーにはBeer01、Beer03、Beer12の3遺伝子座を用いた。
3.結果と考察
 3つの葉緑体SSRマーカーによって、全サンプルは6ハプロタイプに分離された。各プロットにおけるハプロタイプの割合をFigure 1に示す。タイプAは栗駒岳以西での大部分を占めていた。タイプB、Cは北海道、北東北で大きな割合を占め、それ以外の地域と異なる系統がこれらの地域に分布していることが分かった。また、八ヶ岳を除くほとんどの山系では99__%__以上が1?2ハプロタイプしか見られなかった。特に八幡平、鳥海山、吾妻山、塩見岳、権兵衛峠では全ての個体が同じハプロタイプを示した。
 次に、詳しくサンプリングを行った富士山における葉緑体ハプロタイプの比率をFigure 2に示す。北斜面ではタイプAが優先しているのに対し、南東斜面の御殿場口に近づくにつれてタイプDの比率が高まっている。これは1707年の宝永噴火による火山噴出物に覆われ植生が失われた地域に、新たに異なった母系集団が進入、定着した創始者効果の結果だと考えられる。
 以上のことより、風散布種子であるダケカンバにおいても、その母系分布範囲を拡大するためには、新たな生育空間の存在が必要不可欠なのであろう。

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© 2003 日本林学会
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