日本林学会大会発表データベース
第114回 日本林学会大会
セッションID: Q23
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T12 樹木の環境適応とストレスフィジオロジー
樹木の環境ストレス応答にかかわる遺伝子群の網羅的解析手法
*楠城 時彦篠崎 一雄篠原 健司
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抄録

 環境劣化と食糧危機は、深刻かつ危急の問題であり、劣悪な環境での緑化の推進と農作物の生産性向上が強く求められている。とりわけ、バイオテクノロジーによる環境ストレス耐性植物の分子育種に対する期待が高まっているが、そのためにはまず高等植物の環境ストレス応答や耐性のメカニズムを知る必要がある。
 自然環境下に生育する植物は、乾燥、高塩濃度、低温、高温、強光などさまざまな環境ストレスにさらされている。そして、これまでに環境ストレスにより特異的な遺伝子の発現が誘導されることが明らかにされた。中でもシロイヌナズナ等のモデル植物では、近年のゲノム科学的解析手法の発展にともない、ストレス応答や耐性に関与する遺伝子が数百個以上存在することが分かっている。
 一方、樹木を対象としたゲノム科学的研究も近年活発に進められている。特にポプラに関しては、全ゲノム解読プロジェクトが進行しており、「モデル樹木」としての重要性が一層増すことは必至である。本研究は、ポプラゲノム解読後に到来する「ポストゲノム時代」を見据えた緊急的なバイオリソースの整備とそれらを用いた樹木の環境ストレス応答機構の解明を目的とする。

2.研究手法
 樹木は、草本植物と比べて一般的にライフサイクルが非常に長く遺伝学的な解析が困難である。このため、ポプラのような形質転換系が確立している樹種では、特に逆遺伝学的アプローチが有効である。
 本研究では、ポプラの環境ストレス応答機構解明のために、以下に示す手順により完全長cDNAの収集を目指す。
__丸1__ストレス処理をした稚樹からのmRNA抽出
__丸2__完全長cDNAライブラリー作成
__丸3__完全長クローンの塩基配列解読
__丸4__配列情報に基づく遺伝子群の機能予測
__丸5__単離したクローンと配列情報の公開

3.期待される成果と今後の展望
 植物の環境ストレス応答には非常に多くの遺伝子が関与しており、それらの産物であるタンパク質の種類は多岐に及ぶ。本研究により、機能が未知のものを含めて多数のポプラ遺伝子の正確な構造が明らかになる。加えて、完全長cDNAを利用することにより樹木の生命現象の解明や組換え樹木の作成が可能となり、有用遺伝子の同定とその利用が促進される。
 ポプラゲノムの全塩基配列の決定は、2003年中の完了が予定されている。ゲノム情報がもたらす効果は、基礎生物学の分野にとどまらず、産業や地球環境問題といった応用分野においても革命的な影響を及ぼすと予想されている。もとより、樹木の環境ストレス応答機構の解明に向けた取り組みも、ポプラのポストゲノム時代に対応したものでなければならない。具体的には、ストレス関連遺伝子群の発現プロファイルの網羅的解析手法の整備(DNAマイクロアレイ解析)、あるいはシロイヌナズナをはじめとするモデル植物の情報を活用した統合的な解析システムの確立が必要である。

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© 2003 日本林学会
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