人文地理学会大会 研究発表要旨
2009年 人文地理学会大会
セッションID: 507
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第5会場
成田空港周辺における宿泊施設の特徴と外国人宿泊客の行動特性
*中村 文宣鈴木 富之池田 真利子福田 綾
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抄録

 本発表では,多くの訪日外国人旅行者にとって日本の玄関口となる成田空港周辺地域に焦点をあて,成田空港周辺の宿泊施設を利用する外国人旅行者の行動特性を明らかにし,成田空港周辺の宿泊施設が果たす役割について考察する.
 成田空港周辺の宿泊施設について,旅館,ビジネスホテル,コンベンションホテルの3つに分類し,それぞれの特徴とその客層について述べる.成田空港周辺の旅館の多くは,江戸時代に盛んになった成田山新勝寺への参詣に訪れる講集団の休憩・宿泊施設として発展してきた.しかしながら,近年では講集団の衰退が顕著となり宿泊者数は減少傾向にある.そのため,旅館業を続けながら,土産物店や飲食店を経営する旅館もみられる.また,欧米からの個人旅行を中心とした訪日外国人旅行者の受け入れを開始した旅館もある.ビジネスホテルは,全国にチェーン展開するホテルと地元資本のホテルではいくらかの違いはあるものの,駅前や幹線道路沿いなど利便性の高い成田市中心部に多く立地している.こうしたホテルへの宿泊客は,渡航の前泊利用や空港関連企業や周辺の工業団地へのビジネス利用によるものである.ビジネスホテルの開業はバブル期に多くみられるが,2000年代に入ってからも全国にチェーン展開するホテルの開業が続いており,宿泊施設の中で唯一,施設数が増加している.コンベンションホテルの多くは,成田空港に接続する新空港自動車道沿いに立地し,客室数は平均440室前後で,客室のタイプも多様である.また,宿泊以外の利用にも対応できるよう,会議・宴会場,飲食施設,婚礼施設やプール・スポーツジムといった付随的機能も数多く有している.開業した時期は,新東京国際空港(当時)が開港した1978年から1980年代にかけて集中している. エアポートホテルとしての性格が強いこれらのホテルでは,時差調整や渡航の前後泊を目的とした日本人および外国人旅行者や航空会社の乗組員(以下,クルー)による利用がみられる.また,これまでにコンベンションホテルの約半数で経営主体の変更がなされており,近年では外資系企業が資本参加しているホテルもみられる.
 成田空港周辺に滞在する外国人旅行者およびクルーは,その交通手段,旅行形態や嗜好によって,その立寄り先が異なっている.欧米からの個人旅行者やクルーは,成田山新勝寺の表参道など成田市中心部への行動が多い.新勝寺周辺に形成される歴史的町並みや表参道沿いで購入できる日本的な土産物は,欧米人に人気が高く,彼らを引きつける要素となっている.また,エスニックレストラン,バーやパブといったナイトスポットもあり,クルーを中心に利用されている.加えて,成田空港周辺のホテルが運行している無料シャトルバスが成田市中心部とホテルを結んでおり,欧米からの個人旅行者やクルーの行動に重要な役割を果たしている.中国人旅行者を中心としたアジアからの団体ツアーでは,宿泊先である空港周辺のホテルと観光地との間を移動する途中に,成田市内の大型商業施設に立ち寄るケースが多くみられる.こうしたツアーでは日本でのショッピングが大きな要素となっており,店舗数も豊富で飲食店なども揃う大型商業施設は,ショッピングと同時に食事も済ませられることから,ツアーの訪問先として定番となっている.このような状況下,大型商業施設も施設パンフレットや商品説明の外国語表記,中国系クレジットカードの導入を進め,受け入れ態勢を整えている.
 成田空港周辺の宿泊施設は,成田山新勝寺の表参道など成田市中心部や大型商業施設へ訪日外国人旅行者およびクルーの流動を促す役割をもっていると考えることができる.

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