本研究ではDNAの二重鎖にランダムにできた1本鎖切断から2本鎖切断が生成される場合について,切断数と切断場所を表現する確率変数を設定することによって,2つのタイプの数理モデル(Poisson 分布モデル,2項分布モデル)を構築し,数学的に厳密に2本鎖切断数の全切断数に対する比の線量依存性の導出を試み,考察を加えた。
まずPoisson 分布モデルでは,各DNA鎖の長さを t とし,切断場所の分布は [0, t] で一様で,切断数がパラメータ(平均切断数)λ のPoisson 分布に従うものとする。このようなDNA2本鎖が N 対あるとして,N が十分大きいときの2本鎖切断数/全切断数の比 r1 のパラメータ λ への依存性を調べた。ここで,各DNA鎖において切断場所の距離が一定値 ρ 以内のとき2本鎖切断とみなすことにした。
2項分布モデルでは,各DNA鎖が n 個の塩基から成り,各塩基で切断される確率を p とし,1本のDNA鎖における切断数が2項分布 B( n, p ) に従うものとする。このようなDNA2本鎖が N 対あるとして,N が十分大きいときの2本鎖切断数/全切断数の比 r2 の,確率 p についての依存性を調べた。ここでも,各DNA鎖において切断場所の距離が一定値 ρ 以内のとき2本鎖切断とみなすことにした。
しばしばPoisson分布は2項分布において積 np を一定に保ちつつ n→ ∞ とした極限の分布と言われる(np=λ となる)。これは数学的事実であるが,実際の現象に適用する場合,np を一定とする仮定の正当性の問題もあり,それぞれの分布をもとにした結果に違いが現れる可能性がある。本講演ではそのようなことに注意をしながらλあるいは p を線量に換算し,これまで実験的に得られているDNA2本鎖切断の線量依存性との比較を試みる。