日本放射線影響学会大会講演要旨集
日本放射線影響学会第50回大会
セッションID: BP-231
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突然変異と発癌の機構
照射宿主マウスに移植された非照射胸腺由来の発がんモデル系における低線量放射線の適応応答効果
*石井 洋子田ノ岡 宏武藤 正弘佐渡 敏彦辻 秀雄
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抄録

[背景] B10系マウスはX線1.6Gyの4回分割照射で約100%の胸腺リンパ腫を発症する。また、同マウスの胸腺を摘除して4回分割照射を行い、非照射の新生児マウスの胸腺を皮下に移植すると、40%から60%のマウスに移植胸腺由来のT細胞リンパ腫が発生する。この移植胸腺の発がんは、宿主の照射による胸腺に供給される骨髄ProT細胞数の減少及び胸腺内のT細胞の死滅による移植胸腺の一時的萎縮を経て起こると考えられる。放射線があたっていない細胞由来のがん化が起こるので、放射線が直接DNAの変異誘発因子(直接効果)として働くのでなく、宿主の生理的変化の誘発因子として働く間接効果発がんモデル系である。一方、X線4回分割照射による放射線発がんの系において、適応応答効果(微量放射線の前照射による発がんの軽減)が報告されている。我々は、低線量放射線による適応応答が放射線の発がんに対する間接効果にもみられるか否かを移植胸腺発がんモデル系で検討した。
[方法] 雌雄同数のマウスを用いてすべての実験を行った。各群51匹のB10.Thy1.2マウスの胸腺を摘除し、5週令から一週間間隔でγ 線1.6Gyを4回照射した。適応応答効果を調べる群は毎回1.6Gy照射の6時間前に0.075Gyの前照射を行った。4回目の照射直後にB10.Thy1.1マウスの新生児胸腺を皮下移植し、SPF環境下で1年間飼育観察し、発生したT細胞リンパ腫の由来をFACS解析でしらべた。
[結果及び考察]胸腺を摘除しない直接効果では前照射群、対照群とも100%のマウスが胸腺リンパ腫を発症し、前照射群で平均潜伏期間133日、対照群127日(p=0.49)であったが、カプランマイヤー法による生存解析法では有意な差(p=0.007)があった。また、胸腺摘除をおこなったマウスではどちらも31%の移植胸腺由来のT細胞リンパ腫が発生し、生存解析法で有意差は得られなかったが、前照射群で潜伏期間が長くなった(平均159日対140日、p=0.08)。使用した動物数に限界があったが、間接効果の発がんモデル系においても適応応答が傾向として観察された。今後は条件検討とともに間接効果モデルにおける遺伝子変化と適応応答のメカニズムについて検討する。

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© 2007 日本放射線影響学会
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