九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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小児の脳出血患者における復学支援
*仙波 梨沙*前田 香織*直塚 博行*南里 祐介*浅見 豊子
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キーワード: 脳出血, 小児, 復学支援
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p. 70

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抄録

【序論】

今まで問題なく学校生活を送っていたにもかかわらず,突如障害をおった小児患者において,復学するにあたり本人,家族や学校側の不安も大きい現状がある.そこで本研究では,脳出血後の小児患者の復学支援について事例を用い検討することを目的とした.

【症例紹介】

診断名は脳出血,10代前半の女性である.学校から帰宅した際に,今までに経験のない強い頭痛が出現し,家族より救急車要請後,緊急入院となった.造影CTにより,脳動静脈奇形の破裂による皮質下出血と診断された.その後,血腫の増大を認め,開頭血腫除去術を施行された.

【作業療法評価】

わずかに右手指の巧緻性低下を認めた.右下肢の軽度の筋力低下を認めた.基本動作は自立.歩行は監視レベル.食事は自立,排泄,更衣,清拭は一部介助であった.右下1/4に視野障害を認めた.失語,注意障害,記憶障害を認めた.介入より10日後のWISC-Ⅳ合成得点プロフィール全検査:61,言語理解:80,知覚推理:66,ワーキングメモリー:71,処理速度:52であった.

【作業療法プログラム】

入院中は生活動作練習,高次脳機能練習,手指巧緻動作練習を実施し,身体機能の回復に伴い,高次脳機能練習を中心に実施した.外来では週2回OTとSTで介入し,徐々に介入を減らしていった.

【経過】

介入開始~7日:ADL面は監視レベルで可能となった.

介入開始60日:退院が近くなり,母親,父親に対し医師(Dr),看護師(Ns),社会福祉士(SW),理学療法士(PT),作業療法士(OT),言語聴覚士(ST)より説明を行った.

介入開始70日:学校の担任,学年主任,養護教諭,部活の指導顧問と母親にDr,SW,PT,OT,STより復学にあたり配慮すべき点について説明を行った.

退院後,学校生活が始まり,進級後1ヶ月時に学校教員と母親にDr,SW,PT,OT,STより現状を説明し,学校の様子や家庭での様子を聴取した.学校生活は問題なく行えていたが,学習意欲の欠如が問題となっていた.部活や友人関係は良好であった.

面談1ヵ月後,実際の学校生活を見に行った.休み時間は楽しそうに友人と過ごしているが,授業中は集中できておらず教師の指示したことをできていない様子があった.週1回のOTの際に,次の授業の予習をしていくことを導入した.

さらに進級し,新しい学校の担任,学年主任,部活の指導顧問と母親にDr,OT,STより現状を説明し,学校の様子や家庭での様子を聴取した.学校生活は問題なく,部活も受傷前と同等に行えていた.学習面の遅れがあった.

【結果】

WISC-Ⅳ合成得点プロフィール全検査:94,言語理解:95,知覚推理:104,ワーキングメモリー:94,処理速度:83となった.部活では受傷前と同等にできるようになった.コミュニケーションには問題がなくなったが,記憶障害は残存し,学校でのテストではたくさんの記憶力を要求されるため,学習に遅れを認めた.

【考察】

本症例は,退院後復学するにあたり,失語,注意障害,記憶障害が残存し,継続した支援が必要な状態であった.継続的な支援が必要であるため,家族,学校と随時連絡を取りながら,情報を共有していった.石田ら(2010)は小児の高次脳機能障害は復学で終了ではなく,その後も家族,医療,学校,福祉による長期にわたるフォローアップが必要と報告している.一度復学支援してしまえば支援が終了するわけではなく,断続的な支援が必要であると考える.

【倫理的配慮,説明と同意】

本研究に際し,事前に対象者・家族に研究について説明し,同意を得た.企業等から研究者へ提供される謝礼等は一切受けておらず,利益相反に関する開示事項はない.

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© 2016 九州理学療法士・作業療法士合同学会
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