九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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肩甲骨間の疼痛の有無が15㎜の頭部並進運動において頚椎と上位胸椎の骨動態に及ぼす影響
*山﨑 博喜
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p. 156

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抄録

【諸言】

頚椎の屈曲・伸展において胸椎骨動態は関与していないと認識されており,頚椎動態解析の先行研究では胸椎は計測から除外されたのが多い.しかし鷲見らは健常人の頚椎と胸椎の動態解析を行い,頚椎の運動が上位胸椎へ関与を示唆している.ただし鷲見らの運動課題は頚椎の屈曲伸展のみであり,並進運動については言及していない.そこで今回,若年女性を対象に上位胸椎部の疼痛の有無により群分けし,頭部並進運動前後における頚椎と上位胸椎の並進運動距離、骨動態軌跡の基礎的資料を得る目的で, MRIを用いて撮像し骨動態解析を行った.

【対象】

若年女性12名,包含基準は出産経験の無い者で,背部痛で過去3ヶ月以内に整形外科を受診していない者とした.

さらにそこから第1胸椎から第5胸椎部の高さで、両肩甲骨間に疼痛がない者(以下:非疼痛群)6名(24.5±3.4歳)と疼痛がある者6名(以下:疼痛群)(23.5±2.6歳)とした.疼痛がある者においては事前アンケートより疼痛の罹患期間は1年以上であるものを対象とした.

【方法】

本研究では東芝MRI Vantage Elan MRT-2020 を使用し,肢位は背臥位とした.次に,頭部水平位置を定める為に,鼻尖と外耳孔を結ぶ線がベッドと垂直になる様に規定し撮像した.枕で15㎜頭部を並進運動させ,再度撮像した.撮影条件はSE法におけるT1強調画像をRT : 550msec, TE: 15.0msec, FA: 90°により撮像し,スライス厚3㎜,画像再構成する範囲である矩形撮像領域を40×25cm, 画像画素数を352×352とし,NSAを3回とした.画像データをパーソナルコンピュータ上に取り込み,FUJI ボリュームアナライザー SYNAPSE VINCENTの2枚の画像を重ね合わせるソフトであるフュージョンを用いて解析した.

椎体並進移動距離においては,頭部並進運動前後での椎体中点を求め,2点において床面と垂直な移動距離X(㎜)を計測し,各椎体横形にて移動距離を除し,正規化した.また,頭部並進運動後の各椎体位置を運動前の椎体と比較して前方移動もしくは後方移動のどちらかに決定し,腹側運動と背側運動で表した.

統計学的処理においては,腹側運動と背側運動の各椎体の,並進移動距離(%)を対応のないt検定を用いた.

【結果】

疼痛群が非疼痛群に比べ第6椎,第7頚椎,第2胸椎,第3胸椎の並進距離が有意に増加した.疼痛群の殆どはすべての椎体が運動後に腹側に移動した.

【考察】

着目すべき点は運動前後の椎体移動方向にある.頭部並進運動において頚椎椎体のみならず第5胸椎椎体まで全椎体が腹側移動する者と,頚椎もしくは第5胸椎までのいずれかの椎体で腹側移動から逆の背側移動に変換する者がみられた.とくに疼痛群は腹側運動を起こす者が多く、非疼痛群は全員が背側運動であった.さらに腹側運動群は背側運動群と比べ,第6頚椎,第7頚椎,第2胸椎,第3胸椎の並進運動距離に増加していたことにある.以上のことから肩甲骨間の疼痛を有す患者においては,頭部並進運動時に胸椎の前方移動量が増加している可能性が示唆された.頚椎は前弯,胸椎は後弯しており,反対方向への弯曲が存在する.つまり頚椎と胸椎の間には前弯から後弯に移行する変曲点が存在すると考えられ,一般的には頭部前方姿勢により,胸椎は後弯するものと考えられているが,今回の結果から腹側運動群の頭部前方姿勢においては上位胸椎の平坦化での姿勢制御パターンが確認された.この結果より,頭部前方姿勢における肩甲骨間の疼痛原因の一因として胸椎の運動も着目すべきと考えられる

【倫理的配慮,説明と同意】

本研究はヘルシンキ宣言に沿ったもの であり,当院倫理委員会にて承認を得た(受理 番号:2016‐1).被検者への研究協力及び参加の 説明の際には十分な説明と本人の同意を得て,データ計 測を実施した.

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© 2016 九州理学療法士・作業療法士合同学会
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