九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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第26回九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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橈骨遠位端骨折後の機能障害とADL障害の関係
*長谷川 雅美山下 導人牛ノ濱 政喜中道 将治田嶋 裕作
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p. 85

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抄録

【はじめに】
 橈骨遠位端骨折は全骨折例中12から20%にみられ、臨床上、数多く経験する骨折である。治療としては解剖学的整復を行い、疼痛がなく可動域制限のない関節機能の獲得をはかるが、合併症も高頻度に認められ、機能障害やADL障害を残す予後不良例も多数認められる。そこで今回、橈骨遠位端骨折後の機能障害とADL障害の関係について調査した。
【対象】
 対象はH15年1月からH16年4月までに当院にて橈骨遠位端骨折の治療を行った66症例中、追跡可能であった11例(男性1例・女性10例)。うち、右5関節・左6関節、利き手4例・非利き手7例であった。平均年齢65.5±19.7歳。保存的治療7例、観血的治療4例(うちpinning2例・plate固定2例)。受傷後合併症として長母指伸筋腱断裂1例(再建術施行)。受傷後経過観察期間は平均10.2±13.1ヶ月であった。
【方法】
 手関節機能評価として骨折側・非骨折側の自動関節可動域(背屈・掌屈・橈屈・尺屈・回外・回内)、MMT(手関節屈曲・伸展、回外・回内)、握力を計測。ADL評価として日本手の外科学会手指の日常生活動作検査(手掌面をついて立ち上がる・両手で10kgの物を運ぶ・タオルを絞る・水道の蛇口開閉など計20項目より構成)を用い手指ADL能力を調査した。各々の結果から手関節機能の骨折側・非骨折側間における有意差と、骨折側手関節機能と手指ADL能力との相関関係を求めた。なお、統計学的解析にはMann-WhiteneyのU検定・ピアソンの相関係数を用い、危険率5%以下を有意差ありと判断した。
【結果】
 1)関節可動域 単位:度
 骨折側 背屈:49.1±17.2 掌屈:50.5±7.7
     橈屈:15.0±7.6  尺屈:30.5±8.5
     回外:80.9±7.4  回内:67.3±19.0
 非骨折側 背屈:61.4±10.5 掌屈:65.0±14.0
      橈屈:19.6±7.7  尺屈:40.0±8.9
      回外:85.9±6.6  回内:83.2±8.2
 掌屈・背屈・尺屈・回内の順に、有意差を認めた(p<0.01)。
 2)MMT・握力
  骨折側握力:13.7±8.5kg
  非骨折側握力:20.6±6.5kg
 MMT・握力すべてにおいて、有意差を認めた(p<0.01)。
 3)ADL評価(60点満点) 平均:48.6±12.3点
  背屈(r=0.64、p<0.01)・尺屈(r=0.71、p<0.01)・手関節屈筋群筋力(r=0.77、p<0.01)・握力(r=0.78、<0.01)において相関関係を認めた。
【考察】
 橈骨遠位端骨折の機能障害に関与する因子についての報告にはX-P上にて計測するvolar angle、radial angle、radial shorteningなど解剖学的観点から比較検討した文献が数多く見られる。しかし、研究結果にバラツキが多く、未だ確立されたものは少ない。今回、橈骨遠位端骨折後の手関節機能とADL機能の関係に着目し予後不良因子についての検討を行った。結果、手関節機能のほぼすべての項目において骨折側の有意な機能低下を認めた。なかでも手関節掌屈動作に最も有意な差を認めた。これは諸家の意見と一致しており、末梢骨片の偏位によるvolar angleの増大が掌屈制限因子と考えられる。また手指ADL能力は背屈・尺屈・手関節屈筋群筋力・握力とそれぞれ相関関係を認めた。手の機能的肢位において手関節は中等度背屈・軽度尺屈位を呈する。またKapandjiは手根の機能的肢位は指の筋、特に屈筋が最大に効率よく働く肢位と一致すると述べている。今回の調査はこれと合致した結果が得られ、橈骨遠位端骨折後の後療法において手関節機能低下が骨折後ADL能力に関係することが確認された。さらに、ADL評価項目の中では「手掌をついて立ち上がる」、「10kgの物を両手で運ぶ」、「タオル絞り」動作が症例の半数以上に実用性なしという結果となった。これらの要因として橈側偏位による尺屈制限すなわちpower grasp障害、疼痛、そして使用への不安感の関与などが挙げられる。これらの因子により患肢使用に消極的となりADL障害をきたす場合も少なくない。したがって、橈骨遠位端骨折後の治療法として関節機能改善だけにとらわれず、個々の症例に即した実生活に基づくADL指導を行い、患肢の使用を促し実用性を高めていく必要があると考える。

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© 2004 九州理学療法士・作業療法士合同学会
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