2007 年 76 巻 10 号 p. 1135-1141
チャネル長が10nmを切るナノスケール半導体デバイスの研究が活発化している一方で,スケーリング則の限界の兆候もちらつき始めている.ポストスケーリングに向けたブレークスルーを目指すうえで,極微細半導体構造での電子輸送機構の解明は,ますますその重要性を増してきているといえる.本稿では,輸送方程式を基礎にした最近の検討結果を中心にして,微細デバイスでの電子輸送の物理的考察を与える.特に,デバイスサイズが電子の平均自由行程よりも十分に短いナノスケールデバイスであっても,電子輸送は,弾道輸送で期待される単純な物理描像とは異なり,チャネル領域に形成される境界層での拡散的輸送が混在した準弾道輸送になっていることを明らかにする.