日本写真学会誌
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銀塩写真感光材料におけるシアニン色素J会合体の形成と挙動
谷 忠昭
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2007 年 70 巻 5 号 p. 287-294

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抄録

銀塩写真感光材料を代表するカラーフィルムでは, 入射する光の像を構成する三原色の成分はそれぞれ対応する3つの別々の層で捕捉され, 各層ではハロゲン化銀 (AgX) 粒子に吸着された増感色素が入射光子を吸収する. 色素分子が光子を吸収して励起された状態は励起子として色素分子間を移動し, 励起子は解離してAgX粒子の伝導帯に電子を注入し色素相に正孔 (色素正孔) を残す. 励起子の解離には適したサイトが存在する. 色素のJ会合体形成は以下の事実をもたらすので, 感度と色再現の観点からカラーフィルムにとって好都合である. すなわち, J会合体は単量体に比べて粒子の単位表面積あたりの吸着色素分子数が多く, 吸収波長が長い上に狭い波長範囲で強い光吸収を引き起こす. J会合体中では励起子は速やかに移動することができるので, 解離に適したサイトに容易に到着し高い効率でAgX粒子に電子を注入することができる. 一方, J会合体が大きくなり過ぎると励起子の解離に適したサイトの濃度が低くなり, 色素正孔も移動しやすくAgX粒子に注入された電子との再結合が起こりやすくなるので, J会合体のサイズは最適となるように調整する必要がある.

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