産婦人科の進歩
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症例報告
卵巣に子宮内膜症性囊胞を背景として中腎様腺癌と漿液粘液性境界悪性腫瘍が併存した1例
鈴木 裕紀子小菊 愛夏山 貴博森上 聡子近田 恵里石原 美佐成田  萌
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2024 年 76 巻 1 号 p. 1-7

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抄録

子宮頸管に多く発生する中腎癌(mesonephric carcinoma;MC)に類似する悪性腫瘍として, 中腎様腺癌(mesonephric-like adenocarcinoma;MLA)が2020年度版のWHO分類において新たに卵 巣癌および子宮内膜癌の組織学的分類に追加されたが,その発生母地については明らかになっていない.今回われわれは,MLAがミュラー管由来であることを示唆する卵巣癌の症例を経験したので報告する.症例28歳,卵巣腫瘍合併妊婦として当院に紹介となった.妊娠12週に撮像したMRI画像では囊胞内に壁在結節を認め,妊娠に伴う脱落膜様変化を第一に考えるものの,悪性の可能性も完全には否定できない所見であったため,妊娠初期における手術も提示したが希望されず,画像評価にて慎重に経過観察を行い妊娠継続とした.妊娠40週に妊娠高血圧腎症のコントロールが不良となったため帝王切開術を実施し,その際に右卵巣腫瘍核出術を行った.病理学的には脱落膜化変化を伴う子宮内膜症性囊胞を背景としてMLAと漿液粘液性境界悪性腫瘍が併存する像が認められ,MLAがミュラー管由来であることを示唆する所見であった.画像診断的に,妊娠中の子宮内膜症性囊胞は脱落膜様変化と卵巣癌合併の鑑別が難しく,今回も後方視的には卵巣癌合併の可能性をより強く考慮することが望ましかったかもしれないが,脱落膜様変化を背景としてMLAと漿液粘液性境界悪性腫瘍が混在したことは卵巣癌の鑑別をより困難なものにしたと推察された.今後症例を蓄積することによって,MLAの起源や予後,標準治療の確立が望まれる.〔産婦の進歩76(1):1―7,2024(令和6年2月)〕

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