杏林医学会雑誌
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組織形態学的に異なる二種の下垂体腫瘍における遺伝子発現レベルの差異
松尾 英男山田 正三野村 明黄 舜範高畠 一郎陳 祐仁土屋 克巳阪井 哲男吉江 利香村田 厚夫吉本 勝彦脇坂 晟
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2004 年 35 巻 2 号 p. 167-175

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抄録

成長ホルモン(GH)産生性下垂体腫瘍には,組織像が異なる二つの型,densely granulated type (D)とsparsely granulated type (S)が存往する。前者に比し後者ではGH分泌は低いが予後は悪く,電子顕微鏡的に細胞内にfibrous bodyなる特殊構造があることが知られている。本疾患の病態を解明するため,下垂体腫瘍手術摘出標品より抽出したmRNAからcDNAプローブを調製し,遺伝子発現アレーAtlas Human 1.2 Arrayを用いて,遺伝子発現レベルを測定した。本アレーで測定可能な1,176個の遺伝子のうち50個(4.25%)に両腫瘍間でその発現レベルに一定の差を認めた。S型腫瘍ではD型腫瘍に比し,細胞接着,シグナル伝達,DNA複製・修復・組換に関与する遺伝子群で高い発現度を示すものが多く、細胞接着因子に関しては,カドヘリン系の遺伝子の発現は高いが,カテニン系特にjunction plakoglobin (JUP)の発現が低い事が明らかになった。またアポトーシス関連の遺伝子発現の変動は少ないが,易誘導性を示すBax/Bcl-2比がS型腫瘍で低く,アポトーシスを起こし難い状態に有ることが推定された。成長因子およびその受容体遺伝子群では両腫瘍間に発現度の差があるものは少なかった。トランスデューサー・アダプター,転写因子,癌遺伝子および細胞周期調節因子に属する遺伝子群では,S型で発現が高いものとD型で高いものがそれぞれ見られた。以上の結果から,S型腫瘍に特異的な超微細構造の出来と病態,特にこのような遺伝子発現の変動がS型腫瘍の悪性度の原因の一つである事が示唆された。

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© 2004 杏林医学会
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