日本家政学会誌
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阪神・淡路大震災被災地域の公団住宅における住生活上の諸課題 (第 4 報)
非常時を考慮した近隣関係・組織のあり方
中村 久美今井 範子
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1999 年 50 巻 6 号 p. 611-620

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抄録

阪神・淡路大震災による, 防災を考慮した人間関係や近隣組織に対する考え方の変化をみるため, 被災地の公団住宅居住者を対象に調査を行った結果, 以下に示す諸点が明らかになった.
(1) 本調査対象である公団賃貸住宅居住者層において, 近隣交流の低調な状況が明らかになった.特に世帯類型別にみたとき, 若年の単身世帯, 夫婦のみ世帯において, また地区別では, 市街地に立地する新長田でつきあいが低調である.さらに非常時に頼りにしたいものとして近隣をあげた世帯で, 実際には頼れる近隣のいない世帯が3割存在することは, 地域防災を考えるうえでの大きな問題である.
(2) 近隣関係に対する意識をみると, 非常時の関係は重視するものの, 普段のつきあいには積極的ではない状況が存在する.とりわけ流動性の高い若年単身世帯では, 普段から親しくしたいとする世帯は少ない.
(3) 非常時, 近隣組織でまとまって対応することを望む世帯が大半を占める.しかし既存の自治会に対する意識をみると, 地域と関わる時間的余裕のない個々の生活状況等から, 自治会への参加には消極的である.また自治会をもたない地区での自治会への関心は低い.
(4) 近隣との関わりに消極的で, 頼れる近隣をもたない世帯が少なくない公団賃貸住宅居住者層では, 個々のつきあいのいかんによらず, システムとして近隣の相互支援が保証される必要がある.その意味で現行の自治会活動とは別個に, 非常時の対応に目的をしぼった自主防災組織は, 普段の近隣とのつきあいを特に重視しない住民心理に沿う点で現実的であり, 評価できる.
(5) 高齢単身世帯や乳幼児を抱える世帯を中心に, 多くの世帯がその必要性を指摘しているにもかかわらず, 調査対象地域では未だ自主防災組織は結成されていない.その組織づくりに関しては, 居住者の自主的な動きに任せるだけでなく, 行政の働きかけが必要である.同時に, 行政の誘導に先立ち, 公団住宅団地の特性を生かして, 団地内の連絡体制の整備などに連絡員の制度を活用するなど, 公団の関わりが求められる.
(6) 自主防災組織が生活情報の収集, 伝達の役割を担うことは有効である.その際, 活動拠点として集会所の利用が考えられる.今後の集会所計画においては, 備蓄, 備品のほか, 情報の収集, 伝達の拠点としての活用を前提として, それらを集会所の必要機能と位置づけていく必要がある.

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