日本家政学会誌
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ホームヘルパーに介助される高齢者の実態・意向調査を通してみた課題
高齢者とホームヘルパーの双方からみた在宅要援護高齢者の住環境と生活支援の検討 (第1報)
米村 敦子
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1996 年 47 巻 11 号 p. 1109-1117

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抄録

(1) 対象要援護高齢者への公的な住宅保障は低調で, 市部の単独世帯に民営借家居住が多い.各自の寝室は, 健康を害すほど, 広狭に関わりなく療養室化し, 食寝も不分離で一日中を寝室で過ごす比率が増すが, このような虚弱な高齢者ほど寝室評価は低い.借家居住者広さと収納と使いやすさの評価が低い.
(2) 住宅の危険感や不便感とその改善要求は, 水まわり空間・設備と, 通過・上下動作に関わる箇所に集中している.単独世帯に家事空間, 車イス使用者に移動時の不安感が強く, また, 個人による自由な改造の難しい借家居住者に全般に改善要求が高い.寝室には緊急通報装置の要求が高く, 緊急時の不安感が示された.重介護層に移動用リフト等の介護設備要求がある.
(3) 高齢者がヘルパーから受ける介助の内容は多岐にわたり, 重介護層や虚弱層では入浴介護やその他の介護, 高齢者のみの世帯では家事援助が中心となっている.精神面での介助も重要で, 高齢者の心身および日常生活はヘルパーによって支えられている.ヘルパー訪問日以外の生活行動では, 単独世帯の男性と健康を害した高齢夫婦世帯に, 基本的な家事の維持に不安が読みとられた.また, 同居世帯高齢者の家事行動率は非常に低い.ヘルパーの介助の重要性が明示される一方, 高齢者や家族の自立性保持への意識低下を伴う, ヘルパーへの過剰依存の問題も推察される.
(4) 現在の生活の不安は, 健康と家事・家計の問題に高く, 特に, 借家居住者に不安感が強い.また, 単独世帯に健康と家事, 同居世帯で家族関係の不安が高い.今後の生活は, 子への期待と公的な高齢者福祉制度・施設への期待とに二分される.借家居住者と単独世帯に将来を未定的に捉える傾向が強く, 高齢者施設への期待が高い.ヘルパーへの期待感は全般に強く, 現行よりも高い訪問頻度が望まれている.
以上の考察から, 在宅要援護高齢者の住環境と生活支援の整備に向けて, つぎの課題があげられる.
住環境や住生活において厳しい現状にあるのは, 単独世帯を中心とする借家居住者と, 重介護層の高齢者であった.援護を要する高齢者に対する公的な住宅供給事業 (入居前提の自立性の基準は, 在宅の意志を尊重し, 篤い援護を要する高齢者に対しても, 生活支援サービスの整備のもとで柔軟に対応する), および, 民営借家向けの本格的な補助事業 (高齢者向けの住宅改造補助を含む) とともに, 寝室の機能性と居室としての居住性の向上に関する施策上および研究上の課題がある.
生活行動や生活支援の考察からは, 単独世帯の家事や精神生活の問題, 夫婦世帯の介護問題, 同居世帯の家族関係の問題など, 生活状況によって種々に異なる問題点が明らかとなり, また, ヘルパーの介助の重要性が認識された.さらに, 特に借家居住者に現在の生活や将来への不安感が強い現状から, 住環境整備の重要性が生活意識の面からも裏づけられた.居住環境の整備とともに, 高齢者自身の自立性の保持を助ける生活技術の学習や, 給食サービスや安全な車イスなど高齢者向けサービス・機器の開発, 利用しやすい地域施設の整備と緊急時等に即応できる支援体制整備の課題がある.

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