日本家政学会誌
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住宅平面における畳空間の動向
―首都圏の注文戸建住宅における―
川村 道乃今井 範子伊東 理恵
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2006 年 57 巻 1 号 p. 39-52

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抄録

本研究では, 首都圏の都市住宅における畳空間の現況を平面動向から明らかにし, 今後の住宅における畳空間の計画に資する知見を得ることを目的としている. 畳空間の機能と平面における位置関係を検証し, 居住者が住宅計画時に畳空間に求めている機能, 現在の畳空間の使用状況や満足度などを把握することにより, 今後の都市住宅における畳空間の動向について考察している.
近年開発分譲された首都圏の住宅地の注文戸建住宅を調査対象として, その居住者に質問紙調査, および聴き取りによる事例調査を行った. 得られた知見は以下のとおりである.
(1) まず, 平面の中での畳室数について, 1室57.0%, 2室27.6%, 3室以上8.0%で, 畳室1室が過半数を占め最も多い. また畳室のない住宅が1割程度存在し, 首都圏の都市住宅においては畳室のない住宅が一定の割合で存在することが確認できる. このように, 都市性の高い首都圏において, 畳室のない住宅が存在しながら, また一方では畳室が3室以上という畳室数の多い住宅が畳室のない住宅と同割合で存在している. 世帯主年齢60代以上, 世代家族で畳室数は多く, また延べ床面積が大きいほど多くなる傾向がある.
(2) 畳室をもたない世帯は, 1) 「畳はもともと使わない」という積極的に畳空間を不要とする場合と, 2) 「畳室をとりたかったが, 住宅規模との関係や費用面から断念した」という場合に二分される. 1) の積極的に畳空間を不要とする世帯が, 世帯主年齢が若い世帯に多いことから, 将来, 畳室のない住宅が増加することは否めない.
(3) つぎに, 平面の中での畳室の位置関係と室機能についてみる. 平面における畳室の位置は, 畳室1室の場合, 「玄関近く」と「L隣接」の2つの平面型に代表される. 「玄関近く」の場合, 客間または予備室として使われる. 「L隣接」では, 茶の間や居間として使われる場合と, 客間や予備室として使われる場合に二分される.
畳室2室の場合, まず, 平面における位置は, 「独立+隣接」「2室とも他室隣接」「2室とも独立」の3つの型に分かれ, このうち「独立型+隣接型」が最も多く4.5割を占める. さらに平面における畳室の位置と室機能を合わせてみると多様であるが, 2室の室機能の組み合わせとして, 「Lに隣接させた居間や茶の間」と「独立した主寝室」が多い.
畳室を3室以上持つ世帯は, 主寝室や客間を含む割合が高い.
(4) 平面の中に畳の続き間を持つのは27世帯 (8%) である. 畳室が2室の場合はそれが続き間であるのは1割強にすぎないが, 畳室が3室以上の場合はその6割強が続き間を含み, 規模に余裕がある場合には続き間が確保されることが多くなっている.
(5) 畳コーナーを設けた世帯は23世帯であり, 全体の7%を占める. Lや主寝室の一角に設けられ, くつろぎ空間としての存在が確認できる. またインテリアデザインの大きな要素ともなっている. 今後も畳コーナーの要求は一定の割合で存在すると考えられる.
(6) 約3割の世帯では, Lなど洋室の居間と畳の居間とくつろぎ空間を2つ設けている. 畳空間は「第2の居間」として機能している. このような, Lに加えて, やすらぎ, くつろいだ空間としての畳空間を, もう一つの居間として設けた平面は, 畳空間に一層やすらぎとくつろぎを求めたものとして, 現代都市住宅の平面における畳空間のあり方の一つとして見出され, 今後の住宅平面計画において, ひとつの形として位置づくものと考える.

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© 2006 一般社団法人 日本家政学会
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