1995 年 33 巻 4 号 p. 823-832
第二大臼歯出齦後に,第一大臼歯の頬側転位が発現することは非常に稀である. 今回,両側第二小臼歯が先天性欠如し,第二乳臼歯が残存している下顎歯列において,第二大臼歯出齦後に右側第一大臼歯が片側性に頬側転位をきたした症例を経験した.
本症例は3歳時から2か月間隔に観察し,乳歯,永久歯の早期喪失を来すことなく経過した20歳の女性である. 下顎両側第一大臼歯は第二大臼歯出齦前まで頬舌的にほぼ正常な位置にあった. 下顎第三大臼歯はエックス線写真により左右側でほぼ同様な状態で水平埋伏していることが確認された.
累年模型の計測ならびに観察およびエックス線写真の観察により次のような結論を得た. 右側(転位側)において第一大臼歯近心面の最突出部は第二乳臼歯の遠心面の最突出部と互いに接触せず頬側にずれて位置していたことならびに第一大臼歯が完全に咬合関係を失っていたこと,その後上顎第一大臼歯の頬側咬頭外斜面と下顎第一大臼歯頬側咬頭内斜面が咬合接触するようになったことにより,右側のみで第二大臼歯と第三大臼歯の近心方向への力が第一大臼歯を頬側に転位させたものと考えられる. このように第二大臼歯出齦後も稀ではあるが,大臼歯部に局所的な歯列不正が起きる可能性があるため,第二大臼歯出齦後においても臨床的に咬合管理を行う必要性が示唆された.