1989 年 27 巻 3 号 p. 607-611
酸処理歯面の回復現象については数多くの報告があり,電顕的観察,ヌープ硬さ,耐酸性,X線透過性などの観点から,酸処理前の状態に近いところまで回復する事が認められている。一方,エナメル質の酸処理によって表層のフッ素濃度の高い部分が取り去られるわけであるが,このフッ素についても回復現象がありうるのか否かを調べることを目的として以下のような実験を行った。すなわち,健全な左右両側乳中切歯唇面を酸処理し,一方を酸処理直後,他方を4週間後に,それぞれ表層のフッ素濃度をin vivoにおいて測定し,その差を検討した。
その結果,4週の間にフッ素塗布などを行わない自然な口腔内状態で,酸処理歯面のフッ素濃度は有意に増加しており,この増加量は平均で50ppm程度であった。このフッ素取り込み量と関連している可能性のある,唾液と飲料水のフッ素濃度を測定したが有意な相関関係は認められなかった。また,齲蝕感受性との関連性を調べるために,第二乳臼歯の齲蝕罹患状態を一つの指標としたが,フッ素取り込み量との間に相関関係は認められなかった。