2011 年 79 巻 5 号 p. 367-374
わが国では,森林がダムの貯水と防災の機能をあわせ持つという緑のダムという考え方が流布し,とりわけ,ブナなどの広葉樹からなる森林はその機能が優れているとの認識が広く浸透している.本研究では,ブナ原生林からなる世界自然遺産白神山地を流域とする河川を対象に,流出モデルを媒介として,この認識の検証を試みた.ブナ原生林流域に分布型流出モデルを適用し,流出形態を反映すると思われるモデルのパラメータを同定したところ,地中流が支配的で,地表流はわずかであることが示された.さらに,対照流域法の新たな展開として,ブナ原生林流域とは対照的に高度に農地開発が行われた河川に同様の検討を試みた結果,同定されたパラメータに大きな差が認められ,流出の形態は地表流の寄与が大きいことが明らかになった.