2018 年 59 巻 3 号 p. 287-292
血友病性偽腫瘍(以下偽腫瘍)は不十分な止血から生じる血友病合併症であり,一度形成されると対応に難渋することが多い。30歳代の血友病B患者が,左腸腰筋血腫を発症した。HIV・HCV感染と肝硬変を合併しているほか,自営の肉体労働のため自宅での安静が不十分であり,約8年を経て左腸骨を溶解する巨大偽腫瘍に至った。同じく血友病Bの30歳代の弟は定期通院していなかったが,熱中症で当院へ搬送された際,偶然左腸骨を溶解する巨大偽腫瘍を指摘された。偽腫瘍診断時の第IX因子活性は兄が1.8%,弟が7.2%と乖離していたが,遺伝子解析による検証では共にF9にヘミ接合性変異[c.881G>A:p.(Arg294Gln)]を認め,同変異に関する既報から,非重症型変異を継承する兄弟と考えられた。兄の活性低下は肝硬変による合成能の低下が原因と考えられた。非重症型血友病Bの兄弟に,重篤な血友病合併症としての骨溶解性巨大偽腫瘍が生じた症例であり,非重症型血友病であっても十分な止血管理および患者教育が必要であることを示唆する教訓的な症例である。