【目的】滋賀県は琵琶湖の淡水漁業と稲作農業が生業の柱であった歴史が長く、アジアモンスーン圏特有の「米と魚」が食の柱となってきた。琵琶湖の魚を米飯と発酵させて、多様な淡水魚ナレズシが産み出され、また野菜も発酵させて多様な漬物が存在する。滋賀県の特徴は、発酵食品が多様であることと、発酵文化が地域特有の気候・風土の中で育成され、現代まで継承されてきたことにある。 本研究では、滋賀の淡水魚と野菜の多様な発酵食品の特徴、食生活上の位置づけと発酵技術が地域で継承されてきた背景を明らかにしていくことを目的とした。
【方法】平成25~27年にかけて、湖北、湖東、湖南、湖西の四地域における発酵食品の製法や嗜好度の差異や発酵文化の背景などを聞き取り法で調査した。
【結果・考察】琵琶湖の魚の多くは米飯とともに発酵させてナレズシにされる。湖魚は春から夏に多く獲れ、ナレズシ加工することで、年間に亘って食べられてきた。神事や慶事には湖魚のナレズシが神饌となり、客呼びのご馳走となった。ナレズシにされる魚は、フナ、ハス、ウグイ、アユ、オイカワ、モロコの順で多かった。ナレズシの多くは家々で漬けられ、多様な発酵技術が継承されてきた。地域ごとに魚の前処理法や塩分濃度の差が認められた。 野菜類は地域特産の日野菜、万木かぶ、伊吹大根、高月菜、尾上菜、鮎河菜などが漬物にされてきた。近年は白菜、青首大根などの漬物が急増してきたが、滋賀では集落単位を基本に地域と結びついた漬物が多く残っていた。また畳漬け、きりごみ、唐辛子漬けなど地域特有の漬物技術が存在した。積雪の多い湖北では山菜漬物も含めて多様な保存食が多く存在し、生き延びる手立てとなってきた。