2021 年 16 巻 4 号 p. 510-519
医療事故調査の目的であり,かつ最大の障壁は事故の再発防止策の立案であるが,それには原因究明が必要であり,多大な資源の投資を必要とする.ただ,それが事故調査において,当事者を責める印象という新たな障壁を作り出す皮肉な結果となっている.一方で,医療界に依然として横たわる,「特定の状況下において意見や提案を口にすることは危険である」という「暗黙の発言理論(implicit voice theory)」は,医療事故の原因として隠れた大きな障壁といえる.これを駆逐するために,医療チームにおける「心理的安全性」が近年話題になっている.今回,我々は,医療チームの認識の共有不足と,それに伴う伝達不足が影響したと考えられる胃静脈瘤に対するバルーン閉塞下逆行性経静脈塞栓術時の脳出血事例を経験した.本稿では,心理的安全性の欠如がもたらす医療チームへの影響について考察するとともに,優れた医療チームへの道を模索する.