2011 年 2011 巻 23 号 p. 51-73
近年、カルナータカ音楽の楽聖の慰霊祭にあたる儀礼に音楽祭などが伴うアーラーダナーが、南インドを中心に海外でも多く開催されるようになった。本稿では、タミル・ナードゥ州で行われている楽聖ナーラーヤナ・ティールタのアーラーダナー(NTA)を事例として取り上げ、その担い手とはいかなる存在であるかを明らかにする。ナーラーヤナ・ティールタの作品はいくつかの宗教芸能で重要な位置を占めているが、カルナータカ音楽界での知名度は他の楽聖と比較して非常に低く、アーラーダナーを行う上でいくつかの矛盾を抱えており、不利な状況にあった。それにもかかわらず、主催者のヴェンカテーシャンにより、徐々にNTAの一般的なイメージが形成され、近年では「伝統的」であるとさえ認識されている。芸術振興が盛んな社会を背景に、彼がいかにしてNTAの「伝統」を再構築したかを検討する。