測地学会誌
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第6回国際地球潮汐会議
ストラスブール,1969年9月15日~20日
中川 一郎
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1969 年 15 巻 2-3 号 p. 92-96

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抄録

 国際地球潮汐会議が,5年ぶりに,フランス国のストラスブール市で,9月15日から20日までの6日間にわたり,20力国から約70名の関係者が参加して開催された.参加者の大部分はヨーロッパの人たちであり,彼等にまじつてアメリカやカナダなどからの代表の姿も見られたが,ソ連からは1人の参加者もなかつたことは残念であつた.わが国からは,緯度観測所の奥田所長と筆者がこの会議のために派遣され,折から滞欧中の緯度観測所の細山謙之輔・若生康二郎両氏を加え,4名が会議に出席した.遠路をはるばる4名の日本人が会議に参加したことは,日本の地球潮汐研究に対する熱意の表われであると,参加者一同から極めて好感をもつて迎えられた. 会議は,改築後まだ日の浅いストラスブール大学数学および地球物理学教室の講義室の一室で,別掲のプログラムにしたがつて行なわれた.会議に報告された論文は40篇であつたが,別に,8篇の論文がソ連から送付されてきており,Melchior教授によつて,それら8篇の論文の概要が紹介された.会議での講演は,数年以上にわたる長期間の地球潮汐観測資料の解析結果,Ms分潮の検出,海洋潮汐の影響の除去,極地方における観測の開始,あらたに考案された計器による地球潮汐の観測,地球潮汐と極運動との関係などが中心課題であつたが,地球潮汐の理論的研究に関する成果が乏しかつたことは,なにか物さびしい感じをうけた. ストラスブールはドイツとの国境に近い町であり,9月中旬というのに,早朝はすつぼりと霧につつまれて,数10メートル先が見えない日が少なくなかつた.それでも,日中は明るい陽光を浴びるのがつねであつた.筆者は第5回国際地球潮汐会議の直後(1964年6月)にストラスブール大学を訪れたことがあつたが,その当時の古い建物はごく一部を残すだけでほとんど跡形もなく,近代建築のすばらしい大学に変つているのには,まつたく驚いた. 9月18日には,Alsace地方へのexcursionが催された.あいにくの悪天候であつたが,参加者約50名が1台のバスに乗り,まず,Strasbourg市から南へ数10キロメートルの距離にあるColmar市では博物館を訪れ,Ste-Marie-aux-Minesの町では町長主催の歓迎会でワインを味わい,Alsaceの山谷をドライブののち,KaysersbergとRiquewihrでは中世の街並みを見物した.Alsace地方はブドー酒の本場として名高いところであるだけに,excursionでは,あちらこちらで,土地柄のワイソに舌鼓をうつた.なかでも,Riquewihrでは,ワイン工場でワインの製造過程を見学ののち,そこの地下室にある中世のままの姿の酒蔵で味わつたワインの味は,また,格別であった. 今回の国際地球潮汐会議に出席して強く感じたことは,日本のおかれている自然環境ということであつた.ヨーロッパは,一般に,地球潮汐という点においては,極めて安定しているので,その観測結果にも局所性はあまり認められず,極めて良好な結果が得られているのが普通である.ところが,これとは対照的に,日本は周囲を海に包まれているので,海洋潮汐の影響が極めて大きく,不安定な場所にあるので,観測結果も何らかの原因でつねに擾乱をうけており,地球潮汐の観測という点では,明らかに不利な立場にあるということができる.したがつて,日本での観測結果は,そのままヨーロッパなどの観測結果と一致しなのは当然であり,そのちがいを徹底的に調べることが,一つの課題でもある.このような事情を考慮にいれて,地球潮汐研究の現状をふりかえるとき,理論的研究と基礎的実験が欠けているように思われる.日本の地球潮汐研究の発展のためには,関係機関の協力が切に望まれる.

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