行動医学研究
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原著
Japanese Coronary-prone Behavior Scale (JCBS) による日本的冠動脈疾患親和型行動パターンの検討
早野 順一郎木村 一博保坂 隆柴田 仁太郎福西 勇夫山崎 勝之堀 礼子前田 俊彦沼田 裕一殿岡 幸子桃生 寛和
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1996 年 3 巻 1 号 p. 20-27

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抄録

タイプA行動パターンカンファレンスはタイプA行動パターンおよび日本人の心理的特性、日常生活上の習慣についての調査表として、122項目の質問紙であるJapanese Coronary-prone Behavior Scale (JCBS) を作製した。以前の研究で、われわれはJCBSを冠動脈造影検査292例に施行し、有意 (≥75%) 冠動脈狭窄を有する例と有しない例を判別するサブスケールとして26項目よりなるJCBS Scale Aを抽出した。そこで本研究では、未知の独立した群においてJCBS Scale Aが冠動脈狭窄の予測力を有するか否かを検討した。
新たに調査を行った男子冠動脈造影158例にJCBSを施行した。対象の内、54例 (35%) に急性心筋梗塞を、31例 (20%) に過去の心筋梗塞の既往を、20例 (13%) に経皮的冠動脈形成術 (PTCA) の既往を認めた。冠動脈造影の結果より、106例 (67%) は主要冠動脈の少なくとも1枝に有意 (≥75%) 冠動脈狭窄を有し (group CS+)、残りの52例は有意な冠動脈狭窄を有さなかった (group CS−)。また、JCBS Scale Aの判別スコアによる冠動脈狭窄の存在の予測結果に基づいて全ての患者を2群に分けた。
JCBS Scale Aの判別スコアは、group CS−の65%、group CS+の71%の患者で、有意冠動脈狭窄の有無を正しく判別した (全体の誤判別率32%、χ2、P<0.001)。急性心筋梗塞54例の内10例はgroup CS+に属したが、これらの患者の判別スコアはgroup CS−の非急性心筋梗塞例よりも高値を示す傾向が認められた (P=0.082)。Group CS+では急性心筋梗塞例と非急性心筋梗塞例の間に差は認められなかった。心筋梗塞やPTCAの既往のある例はgroup CS−には存在しなかった。またgroup CS+では心筋梗塞の既往の有無およびPTCAの既往の有無による判別スコアの差は認められなかった。
本研究の結果は、男子冠動脈造影例における有意冠動脈狭窄の予測スケールとしてのJCBS Scale Aの妥当性を示すものである。これまで冠動脈疾患の予測スケールとして多くの質問紙が報告されているが、その殆どはタイプA行動パターンの評価を目的とするものであった。JCBS Scale AはタイプA行動パターンの概念に限定されない行動科学的特性の評価法であるという点で過去のスケールとは一線を画するものである。その意味で、本スケールは日本人の冠動脈疾患親和性行動の評価法として大きな意義をもつものと考える。また、JCBS Scale Aの判別スコアは有意冠動脈狭窄を持たない急性心筋梗塞例で高い傾向を示したことから、本スケールは血栓形成やスパズムなどによる冠動脈の閉塞過程とも関連する可能性がある。JCBS Scale Aの意義をさらに明らかにするために、その冠動脈疾患の様々な病態との関連をより広い範囲の集団で検討することが必要である。

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© 1996 日本行動医学会
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