本総説は, 冬季光化学大気汚染に関して, 仮説であった時期から当然のように数値モデル内で扱われるようになってきた現在までの約10年間の研究の変遷をまとめたものである。そこでは, 説明不可能な初冬季のNO2高濃度現象に対して, まずdiagnosticな数値モデルにより現象の存在が示唆され, 観測によって存在が確かめられ, 現況再現をめざしたより詳細な数値モデル開発が進み, 更にNO3-の再現を含めた浮遊粒子状物質 (suspended particulate matter, SPM) モデルの開発に繋がっていく状況を概説した。また, ヨーロッパ諸国における研究では, 冬季のNO2汚染の原因として光化学反応の存在は考慮されてこなかったが, 米国においては冬季のエアロゾル汚染中のNO3-高濃度の原因として光化学反応の存在が指摘されている。この点から, 一見わが国に特有とみられる本現象が, 実は中緯度地域の大都市域において普遍的なものでもある可能性を示唆する。