2020 年 55 巻 1 号 p. 20-26
対流圏オゾン濃度は経済発展が著しいアジア地域で増加しており、農作物生産に及ぼす影響が危惧されている。アジア地域の主要作物であるイネも現状のオゾンレベルで減収している可能性が指摘されているが、収量などに関わる慢性的なオゾン影響の発現メカニズム解明は遅れていた。著者は共同研究者とともに国内外の数十品種を用いたオゾン暴露試験や感受性が異なる品種のプロテオーム解析、さらに分子遺伝学的解析を行い、オゾンによるイネ、特にインド型品種の収量低下において、従来指摘されてきた葉の可視障害などによる光合成機能の低下を主因としない新たなメカニズムが関与することを発見した。本稿では、オゾンによるイネの収量と品質低下に関する新たな分子メカニズム解明のため、著者が共同研究者とともに取り組んできた研究の成果について概説する。