大気環境学会誌
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原著
加熱調理により生成する多環芳香族炭化水素の挙動
田中 伸幸安田 百慧子津崎 昌東宮崎 あかね
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2013 年 48 巻 6 号 p. 260-267

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抄録

本研究では,食材中の主要構成成分である炭水化物,タンパク質,脂質の含有量が,加熱調理による多環芳香族炭化水素 (PAHs)生成量に及ぼす影響を評価した。7 種類の食材を焼き調理した際の調理排気を採取し,PAHs を分析した。その結果,焼き調理による排気中の粒子状PAHs 濃度は,食材中の脂質含有量が少ないクルマエビ,トリササミ,コーンにおいて低く (0.012~0.068 μg m-3) ,脂質含有量が多いサーモンや豚肉などで高くなる(21.3~703 μg m-3) 傾向が示された。また,脂質を多く含有する食材では,食材の種類によらず3 環のPhenanthrene,および4 環のFluoranthenePyrene が支配的であり,これら3 成分で全PAHs 53~62%を占めた。さらに,調理排気中のPAHs 濃度は食材中の脂質含有量と強い正の相関を示した一方で,炭水化物やタンパク質含有量とは相関が認められなかった。以上の結果から,焼き調理にともない生成するPAHs は,食材の種類によらず,食材中の脂質含有量から推計しうることが示唆された。また,豚肉調理により得られたデータから,生成したPAHs の分配を評価した。その結果,豚肉の焼き調理により生成するPAHs のうち,食材に残留するのは0.02%に過ぎず,ほぼ全量が調理排気に移行し,換気扇フィルタに捕捉される47%を除いた53%は室外大気に放出されると推計された。

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© 2013 社団法人 大気環境学会
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