2004 年 36 巻 12 号 p. 883-892
生理的ペースメーカーには心房細動予防効果があるとされている.心房ペーシングは,overdrive効果により異所性自動能を抑制し,心房細動を誘発するlong-short PP間隔をなくし,心房細動発生を抑制する.また,心房ペーシングによる血行動態の改善および心房負荷の低下により心房細動は起こり難くなる.ペーシングにより徐脈を改善しただけで心房細動が起こらなくなる症例があるが,通常のペ一シング心拍数では心房細動の発生が予防されず,高頻度ペーシングにより心房細動の発生が予防される症例が存在する。そこで,自己心拍数より常に高いペーシングを維持するペーシング・アルゴリズムが開発され試みられている.心房細動を有する症例のP波の持続時間は延長していることが多く,心房不応期の不均一性は通常の心房ペーシングにより,むしろ拡大する.心房間の伝導遅延が大きいと,左房-左室間の房室収縮間隔は短くなる.左房-左室間の房室収縮間隔が極端に短縮すると,心機能は低下し左房負荷が高まる.これらの問題を解決するために,Bachmann bundle pacingやmulti-site atrial pacingが試みられている.さらに,徐脈性不整脈を伴わない,これまではペースメーカーの植込み適応とはならなかった心房細動例においても,ペーシングにより心房細動を抑制する試みがなされているが,その有効性についてはさらに検討を要する.