2000 年 32 巻 3 号 p. 249-257
心筋細胞の形状,ギャップ結合の分布,筋線維間の間質の存在により,筋線維走行に平行(L),垂直(T)な方向では,興奮伝導特性が異なる(異方向性伝導特性).L,T方向では,伝導速度が異なるだけでなく,伝導安全性にも差が生じ,これは一方向性ブロックの原因となる.しかし,これまで,ブロックがL,Tいずれの方向に生じるのかに関しては一定の見解がない.我々は電位感受性色素を用いた光計測法により,イヌ右心房自由壁における異方向性伝導特性を詳細に検討した.その結果,早期刺激または高頻度刺激により,L方向ブロック,T方向ブロックの双方が観察され,さらに,L,T方向の伝導安全性の差と,L,T方向の伝導速度の比(L/T比)に密接な関連を認めた.L/T比が比較的小さくtear-drop型の等時線図を示す場合にはL方向ブロックが生じやすく,L/T比が大きく,linear型の等時線図を示すほど,T方向ブロックが出現した.L/T比や等時線パターンは,加齢により変化し,それに伴いL,T方向ブロックの出現頻度が変化した.ギャップ結合の分布の変化や間質の線維化等により,L,T方向の伝導安全性は修飾されるものと考えられた.