心臓
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第3回 心不全の病態と治療研究会「循環制御からみた心不全の病態」
Marvin A. Konstam
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1996 年 28 巻 Supplement2 号 p. 32-45

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抄録

心不全はさらに心不全を引き起こすということを,臨床医はかなり以前から気づいている.左室(LV)収縮機能不全を合併している心不全患者の場合,臨床症状がやがては自然に増悪することが知られている.心筋障害を伴った心不全動物モデルまたは患者には,左室に進行性の肥大,拡張,およびリモデリングが観察されている.これらの病因について,多くの研究がなされるようになった.このような研究を続けるうち,LV収縮機能不全のある患者においては,神経体液性機構の活性化が重要であることを我々は認識するようになった.このような病状の場合,アドレナリン系,レニン-アンジオテンシン系,心臓由来の血管拡張性ペプチド等のさまざまな神経体液性機構が充進する.
なお,当初これらの制御機構は全身性血管作用を介して作動するものと考えられていた.しかし現在では,paracrine作用およびartocrine作用も作動していることが判明している.たとえば,レニン-アンジオテンシン系はさまざまな組織に存在している.血管系ならびに心筋の各種細胞等,すなわち,心筋細胞,線維芽細胞,心筋線維芽細胞,および内皮細胞等にもみられる.これらの概念を臨床に応用できる可能性は,すこぶる大きい.アンジオテンシン変換酵素阻害薬は,全身性の血管作用,および組織に対する局所作用の両方を介して,臨床転帰に有益な効果をもたらしそうだ.また,β-アドレナリン作動性神経遮断薬の臨床有用性を示す証拠も,増えつつある.一方,一部のカルシウムチャネル遮断薬等,神経体液性機構を刺激する薬剤は,心不全および死亡への進行を速めることが判明している.一部の新しいジヒドロピリジン系カルシウムチャネル遮断薬については,その有用性を裏付ける文献が増え続けている.これは,これらの薬剤の神経体液性機構活性化作用が弱い,もしくはないことと,関連があるのかもしれない.病的な心筋の肥大,ならびにリモデリングについての生理学的,細胞学的,分子レベルでの機序の解明は,心不全および心室機能不全の予防,および治療に,新たな大きな進歩をもたらすであろう.

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