1996 年 28 巻 8 号 p. 708-712
症例は73歳の女性で,主訴は胸部圧迫感.田植えの最中に胸部圧迫感,めまいを自覚.血液検査で末梢血に異常を認めなかったが,凝固線溶分子マーカーの軽度上昇を認めた.経胸的心エコーで収縮期に心房中隔が左房側へ突出し,拡張期に右房側へ突出する所見を認めたが,心房腫瘍との鑑別は困難だった.肺動脈造影でも同様の所見を認めたが,確定診断には至らなかった.このため経食道心エコーを施行し,拡張末期に右房側へ突出した心房中隔はその後S字状の曲線を描き収縮末期には左房側へ突出する所見を認め,心房中隔瘤と診断された.また,左房内にmassは認めなかった.
心房中隔瘤は比較的まれな疾患で多くは無症状であり塞栓症の原因としても重要視されているが,本症例では塞栓症を示す所見は得られなかった.経食道心エコーが診断に有用であった心房中隔瘤の1例を経験したので報告した.