心臓
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症例 甲状腺剤投与により冠動脈攣縮が原因の心筋梗塞症を併発した僧帽弁置換症例
日浅 芳一石田 孝敏原田 道則相原 令矢野 勇人和田 達也森本 真二坂東 正章中井 義廣片岡 善彦
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1986 年 18 巻 10 号 p. 1211-1217

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抄録

慢性甲状腺炎による甲状腺機能低下症を伴った僧帽弁置換症例に対し,thyroxine(Thyradin(R)-S)を投与したところ,冠動脈攣縮による心筋梗塞症を併発した.Thyroxine投与によるかかる報告はなく,貴重な症例と思われたので報告する.
症例は63歳,男.僧帽弁逸脱に起因した閉鎖不全による心不全にて入院した.弁置換の術前検査にてT3-RIA;0.67ng/ml,T4-RIA;3.3μg/dl,TSH;43.8μU/mlと軽度の機能低下およびサイロイドテスト,マイクロゾームテストの高値を示し,慢性甲状腺炎による機能低下症と診断した.弁置換手術後食思不振,全身倦怠感が持続したため,thyroxineを25μg/日より投与,50μg/日まで増量した.投与2週後くらいから動悸,頭痛,肩こりなど甲状腺機能亢進症類似の症状が出現した.投与3週後に胸痛,呼吸困難が現れ,起坐呼吸となった.胸部誘導心電図の著明なST低下,心臓超音波検査でのdiffuse hypokinesia,CPKの上昇から急性心筋梗塞と診断し,緊急冠動脈造影検査を施行した.術前検査ではほぼ正常冠動脈像を呈していたが,左冠動脈に著明な冠攣縮を生じていた.亜硝酸剤やCa拮抗剤の冠内投与も無効で,IABPにより辛うじて救命できた.
本例のごとく,thyroxineが原因となり冠攣縮が生じたとの報告はない.こうした冠攣縮が致死的となる可能性もあり.甲状腺機能低下症の治療上注意が必要である.

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