1984 年 38 巻 12 号 p. 1174-1179
抗精神病薬により抗利尿ホルモン不適当分泌症候群(SIADH)を併発した分裂病の1例を経験した. 症例は憑依妄想を主症状とし, 妄想に影響された自殺企図により腰椎圧迫骨折を起こし, 各種抗精神病薬の投与では妄想の改善が見られず, その副作用のSIADHによる低ナトリウム血症が持続し, これらの治療過程において更に自殺企図を繰り返すなど, 極めて治療困難な例と思われた. 我々はこの症例に筋弛緩剤使用による無けいれん頭部通電治療を行つたが, その結果, 憑依妄想が消失したのみならず, 血清電解質値も正常に復し, 良好な経過をたどり退院に至つた. 症例の提示と共に, 抗精神病薬の副作用と身体合併症に対する処置, かかる症例への頭部通電けいれん治療の適応とその施行方法, 総合病院における精神科と他の診療科との協力の問題などについて考察を加えた.