老年歯科医学
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臨床報告
歯性上顎洞炎を契機に感染性心内膜炎を発症した認知症高齢者の1例
森 美由紀河合 絢清水 梓齊藤 美香大鶴 洋平野 浩彦
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2021 年 36 巻 3 号 p. 249-255

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抄録

 認知症高齢者は,身体症状,認知症の行動・精神症状(behavioral and psychological symptoms of dementia:BPSD),および介護の環境などにより,歯科の受診が困難になることがある。今回われわれは,認知症高齢者において根尖性歯周炎が歯性上顎洞炎をきたし,感染性心内膜炎を発症した1例を経験したので報告する。患者は97歳女性で,アルツハイマー型認知症があり,要介護5であった。発熱を主訴に当院救急外来を受診したところ,菌血症の疑いで緊急入院となった。血液培養検査の結果,口腔レンサ球菌であるStreptococcus anginosusが検出され,経食道心臓超音波検査にて僧帽弁に疣腫を認めたため,感染性心内膜炎と診断された。感染源の精査を目的に当科依頼となった。10年以上歯科への受診歴はなく,口腔内に多数の残根を認めた。CT画像において,左側上顎第一大臼歯根尖性歯周炎が左側上顎洞に波及した歯性上顎洞炎を認め,他に明確な侵入門戸を認めないことから,感染性心内膜炎の感染源であると判断した。歯科治療の受容が困難だったため,静脈内鎮静法を併用して原因歯である左側上顎第一大臼歯および他の残根を抜歯した。さらに,退院後も歯科の介入を継続できるよう,入院中から歯科訪問診療の導入を整備し,介護者への口腔ケア方法の指導を行った。ペニシリンGカリウム投与後すみやかに解熱し,血液培養検査で陰性を確認した。しかし,僧帽弁破壊により僧帽弁閉鎖不全症が増悪し,心不全が進行した結果,第31病日に死亡した。

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© 2021 一般社団法人 日本老年歯科医学会
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