老年歯科医学
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原著
寝たきり高齢者に対する口腔ケアが循環動態に及ぼす影響
河合 利彦山内 義之舘村 卓
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2011 年 26 巻 3 号 p. 298-307

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抄録

寝たきり高齢者に対する口腔ケア中の循環動態は, 意識状態の良否や口腔周囲における過敏反応の有無によって変化することが想像されるものの, 検討された報告は, われわれが渉猟し得た範囲では見当たらなかった。口腔ケア中の循環動態が意識障害の程度および過敏反応の有無によって変化するか否かを, 収縮期血圧, 脈拍数, Rate Pressure Product (以下RPP) を用いて検討した。対象は, 一日中ベッド上で過ごし, 排泄, 食事, 着替えにおいて介助を要する障害老人の日常生活支援度 (寝たきり度) ランクCの高齢者とした。指示に従える従命可能群 (以下A群), 従命が不可能で口腔ケアに過敏な反応のない群 (以下B群), 従命が不可能で口腔ケアに過敏な反応がある群 (以下C群) に分類した。初回時口腔ケア中の収縮期血圧および脈拍数を連続測定しRPPを算出した。各群での口腔ケアの所要時間と循環動態の最大変動値の相関を調べた。A群は循環動態に大きな変動がなかった。しかしながら, B群は, 収縮期血圧およびRPPが減少し, C群では, 各々増加する傾向にあった。すべての群で脈拍数に大きな変動は認められなかった。C群において収縮期血圧の最大変動値と口腔ケアの所要時間に相関が認められたが, その他は認められなかった。寝たきり高齢者に対しての口腔ケアは, 従命が可能な場合には循環動態に対して大きな負担となることは少ないと考えられた。意識障害患者の場合は, 過敏反応がない患者では最初は緊張しているものの, 徐々に慣れていくことが考えられたが, 過敏反応がある場合には, 急激に血圧が上昇する可能性が高く, 偶発症に留意して行う必要性が示唆された。

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© 2011 一般社団法人 日本老年歯科医学会
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