新しいcarbapenem系抗生物質であるbiapenem (BIPM) について消化器外科領域における基礎的, 臨床的検討を行い, 次のような結果を得た。
1. 抗菌力: 臨床分離のStaphylococcus aureusでmethicillinのMICが6.25μg/ml以下の株 (MSSA) では良好な抗菌力を示したが, 12.5μg/ml以上の株 (MRSA) では高いMICを示した。Enterococcus sp.のMIC₉₀は6.25μg/mlと良好な抗菌力を示した。グラム陰性桿菌ではEscherichiacoli, Klebsiella pneumoniae, Klebsiella oxytoca, Proteus mirabilis, Enterobacter cloacae, Enterobacteraerogenes, citrobacter freundii, Acinetobacter calcoaceticusではいずれもMIC⁹⁰が3.13μg/ml以下であり良好な抗菌力を示した。Serratia marcescens, Pseudomonas aeruginosa, Pseudomonascepaciaでは一部MICの高い株が存在するが, 比較的良好な抗菌力を示した。
2. 体内動態: 胆嚢摘出術2例, 結腸切除術, 胃全摘術, 膵体尾切除術の各1例に術中にBIPM 300mgを点滴静注し, 血漿, 腹水, 腹膜, 膵, 胆嚢壁, 尿を採取し, BIPMの濃度を測定した。腹水中には血漿中とほぼ同濃度の移行を認めた。腹膜には点滴終了後1時間で1.36μg/gの移行を認めた。
3. 消化器外科感染症である術後創感染7例, 穿孔性腹膜炎5例, 腹腔内膿瘍5例, 横隔膜下膿瘍2例, 腹腔内膿瘍と創感染合併例1例, 後腹膜膿瘍1例, 限局性腹膜炎1例, 胆管炎1例, 胆嚢炎1例, カテーテル敗血症1例の計25例に本剤を投与した。その結果, 著効3例, 有効18例, やや有効4例と優れた臨床効果を認めた。副作用として発疹1例, 臨床検査値の異常を1例に認めたのみであった。
以上の結果から, BIPMは外科領域の感染症に対して有用な薬剤であると考えられた。